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プロローグ

「うがあああああ!!負けた負けた!次だ次!」


 そう言いながら僕の向かいに座っている竜司はせっせと前の試合に使ったカードを片付けて次のゲームを始めようとしている。


「勝つまでやればいつかは勝てるだろうけど、ちゃんと対策もした方が勝率も上がるよ?」

「俺は早く負けたこの悔しさをお前に返してやりたいんだ!」


 僕は嫌味抜きにアドバイスのつもりで竜司に言ったが、聞く気はないようだ。まあいつも通り。


「対策がぴったりハマった時は得もしれない快感で満たされるのになあ……」

「相変わらずお前って大人しそうな顔しといてカードに関してはえげつない思考だよな……」


 そんなことを話していたらガチャっと若干錆びついている部室のノブが回る音が聞こえた。


「竜司くん、最理くん、こんにちは。さっき負けた時の声が部室の外にまで聞こえてきたよ」

「おお、葵!今からこいつをコテンパンにのしてやるところだ。」

「根拠のない自信も無いよりはマシってやつなのかな……」


 そう言いながら葵さんは持ってきた黒の地に金色がちりばめられたシャネルバッグを僕らがカードをしていたテーブルの上に置き、デッキケースを中から取り出したのを僕は横目で見た。

 やっぱり何度見てもあんな高価そうないかにもお嬢様が使うようなバッグからカードが出てくるのは違和感あるなあ……。

 そんなことを考えながら、僕らのサークル活動は始まる。


 僕はとある大学に通う大学二年生。カードゲームをこよなく愛するただの一生徒だ。

 高校までは実家から学校まで通っていたけど現在は大学の都合上、学生マンションで一人暮らしをしている。

 そんな僕は大学でカードゲームサークルに所属している。しかしサークルによくない噂が走り、年々衰退の道を辿っていたこのサークルは、僕と、さっき一緒にカードゲームを楽しんでいた(コテンパンにした)竜司、そして葵さんの三人で現在は形成されている。三人とも大学が初対面だったけど今はほとんど毎日、隙間時間に部室に集まってはカードで遊んでいる。


「だからここは相手の伏せカードを考えてリスクとリターンが釣り合っているか、リカバリーは効くかどうかを考える場面だったんだよ。」

「そんなの知らねえ!俺は自分が気持ちよくなれるコンボを決めてスカッと勝ちたいんだ!」


 こんな風に荒っぽいのが竜司。茶髪でよくわからないけど一言で言うなら今時な感じ。気さくなやつで、何をするにも少しオーバーな反応をする。コース選択が違うから普段は僕と一緒にいないけど、たまに遠目で竜司を見かける時はいつも輪の中心にいて、リーダー性が滲み出ている。


「竜司は相変わらずだね。最理くんも少し神経質すぎる気もするけど。」


 今のは葵さん。黒髪美人でいかにもお嬢様らしい立ち振る舞いをしている。彼女が言うには名家にいた頃の名残だとか。詳しいことは聞けていないけど、聞いて不穏な事態になることも避けたいので、聞く予定はない。


「だって負けたら悔しいじゃないか」


 理で詰めていく僕のプレイスタイルには根強い観念が存在する。

 それはこの先も変わらないだろう。これだけは言える。


「僕はカードゲームで相手を負かしたいんじゃない。上回りたいんだ!」



ーーー



 ある日、三人でいつものカードショップにでも行こうと、大学からカードショップまでの慣れた道を、カードの話や世間話をしながら歩いた。

 そして、そんな夕暮れ時の楽しい時の中で僕の目に留まったものがあった。


 カード大会開催!入賞者には”あなたが望む世界”をプレゼント!


 それは建物と建物の間にあった田舎のバス停のような、木造でできたボロい店の前にあった手作り感満載のポスターだった。ちょうど僕たちが今持っているカードゲームで、しかもエントリーした当日に参加できる突発大会で日付は今日、さらにエントリー締め切りは残り30分程度だった。

 これは是非とも参加しなければ!

 大会というのは全くの他人と本気の戦いができる熱いイベントなのである。

 でも何だろうあれは?景品は”あなたが望む世界”?

 そんなカードが存在していただろうか……まあ先のことを考えてもしょうがない!とりあえず参加参加!と二人も半ば強制的に大会に参加させようと、僕たちは店の中に入った。


「うお……意外と中は清潔……なのか?」


 店の中は外見からは予想できないほど広く、それでいてどこか外とは違う空気に満ちていた。

 店には真ん中のあたりににテーブルが4つあり、カードは売られていないようだった。テーブルには向かい合うように丸いすが2つ置かれ、奥にレジのような何かがあり、店員らしき人が佇んでいた。

 おそらく相当年齢を重ねているが、腰は伸び鼻筋がピシッと通ったいかにも紳士のような雰囲気のある妙な老人で、僕たちはその人にエントリーの申し込みをすると


「やあいらっしゃい。君たち三人は実に運が良い。実は今の所参加者が君たちしかいないんだ。」


 それを聞くと竜司が眉にしわを寄せて


「それの何処が良いんだ?」

「今回の大会では上位三人が景品を受け取れるんだ。だからこのままいくと、君たちは他愛もなく望む世界を手に入れることができるわけだ」


 なるほどそれは確かに運が良いのかもしれない。しかしまだ疑問はある。


「あなたが望む世界って何ですか?特典のカードとか何かの引換券とかですか?」

「まあそれは大会後のお楽しみでいいじゃないか。君たちはテーブルのあたりにある椅子で待機しててくれないかな?何ならカードで遊んでいても構わない。何しろここは滅多にお客さんが来ないからテーブルは好き放題さ。」


 そう言いながら老人はレジの奥に下がっていった。

 僕たちはそうして大会までの時間をデッキの確認や、軽く対戦をしたりしながら過ごした。


 そして大会開始時刻ぴったりに


「さあ、大会を始めよう」


 と僕の後ろから突然聞こえたので反射で振り向くと、そこにはすでに老人がいた。

 レジを挟んでいたので気づかなかったのか、老人は身長が180cmほどで、威圧感があった。


「今回の大会は君たち以外の参加者はいなかったが、しかしそれでは大会を行う意味がない。そのため、特別ルールとして、私に勝ったものが望む世界を得られることとしよう。」

「おお!おっさんがボスってわけだな!面白え!」


 血の気が盛んな竜司はこのルールにとても乗り気だった。

 僕としても慣れたこの三人だけで大会をするのは普段からでもできるし、特に意義はなく、葵も同様の考えだった。


「よろしい。では早速始めようか。」


 そうして僕たちの大会は始まった。


 が


 弱い!このおじいちゃん弱い!

 あまりにもあっけない展開でこっちが気を遣ってしまう程度には弱い!

 すでに勝利を収めた竜司と葵さんは僕と老人の戦いを見てはいるが、とても退屈そうだ。

 僕自身ももう勝ちが見えてはいるものの老人は最後の粘りを見せ、なかなか決着がつかない。不自然なまでに。

 いい加減こんな死体蹴りのような真似はやめて、ゲームを終わらせようとカードをプレイしようとした矢先


「ふむ……君はこういうタイプか」


 老人がそう呟くのを聞いた。何か違和感がある言葉だったが、僕は尾を引くことなく容赦無くゲームを決めた。


「むむ……負けて、しまったな。全戦全敗だ。」


 老人はまるで負けたのを全く気にしないかのように笑いながらそう述べた。


「おっさん弱すぎるよ……。」

「こら。そういうことは思っても口に出すことは礼儀としてなっていないな。」


 弱いって部分を否定しないとそれはさらに相手を傷つけるんじゃないかなと竜司と葵さんの話を聞きながら考えていると


「さて、見事私に勝利した君たちには景品を送らないとね」


 あ、そうだった。あまりにも張り合いがなくて忘れてたけどこれ大会なんだった。

 僕はそんな失礼なことを考えていると突然目の前に”穴ができた”。

 床が抜けたとか、そういうことではなく、空間が裂けた。


 僕たちが取れた反応は

(((?)))

 とポカーンという擬音が出てくるように口を半開きにするくらいだった。


「さあ!君たちには景品として、望む世界への招待券を用意した!この世界で君たちは悠々自適に、己が信念のもとに行動してくれ!」


 そう言った途端に穴は掃除機のように吸引音を出し、ものすごい力で僕らを引っ張ってきた!


「うおおおおおぉぉおおお!!吸い込まれるウゥぅうう!!!!」

「きゃああああぁぁぁ??!!!」

「なんでええええええええ!!!」


 僕たちは必死にテーブルに捕まってしぶとく耐えていた。


「なんで素直に受け入れないのかね……?そんな嬉しそうな悲鳴まで上げてるのに」

「急にこんなことされて黙ってスイーって吸い込まれる方が異常だろ余裕で脊髄反射だ!」

「この悲鳴が嬉しく聞こえているならその耳捨ててしまった方が良いと思うな!」

「ほっほっほこれは手痛い」


 僕らも必死に抵抗するが、その抵抗も虚しくテーブルごと穴にひきずりこまれている。もう時間の問題だ!


「お前の目的はなんだ!何がしたいんだ!」

「最理くん。私は君に一番期待しているよ。どうか異世界を生き抜き、願わくばーーー」


 最後だけはやけに小さく何かを言った老人は微笑むと僕たちが捕まっていたテーブルを乱暴に蹴飛ばした。


「異世界への片道切符だ!楽しんできたまえ諸君!」

初投稿作品です。

感想でガシガシダメ出ししてくれると嬉しくなるドMです。


二日に一回くらいは更新したい

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