泉を見つけました
しばらく森の中を歩いていた二人は、やがてそこに辿り着きました。
「……泉だ」
「泉だね」
そこは森の中でも、ぽっかりと開けた空間になっていて、清涼な水を湛えた大きな泉が広がっていました。
きらめく陽光が、天からの恵みのように降り注いでいます。
二人は水際まで来ると、唾液が乾いて、べとべとが、かぴかぴに変わってきた自分たちの体を見ます。
周囲や水の中を注意深く見渡しても、特にこれといった生き物の姿などは見当たりません。
「……水浴び、しちゃう?」
「いやでも、嫌な予感しかしないんですが」
「良くないことがあったら、次はいいことがあるもんだよ」
「姫様のその楽天的なところは、少しだけ尊敬します。わかりました、じゃあボクがまず入ってみて、安全かどうか確かめますから、姫様はそのあとに入ってきてください。ボクが何かに襲われたら、姫様はすぐに逃げてください」
「だから、それじゃあ私にもあとがないんだって。セルフィさ、その自己犠牲の発想を、まずやめよう?」
「むぐっ……」
「きっと大丈夫だよ。一緒に入ろう」
「いや、でもですね……」
「えーい、めんどくさい。えいっ」
「は……? ちょっ、姫さ……うわああああっ!」
ざっぱーん。
オリエに思い切り背中を押されたセルフィは、服と鎧を身に着けたまま、泉の中に飛び込んでしまいました。
泉に沈んだセルフィは、やがてぶくぶくと浮上してきて、顔だけを水面上に現します。
「──ぷはっ! 姫様っ、何するんですか!」
「やっほーい!」
「って、ちょっ、待っ……!」
その水上に顔を出したセルフィに向かって飛びつくように、オリエ姫も飛び込みます。
再び、ざっぱーんと水しぶきがあがります。
(※注:彼女たちは特殊な訓練を受けています。危ないので、良い子は絶対に真似してはいけません)
「──ぷはあっ。あはははは、冷たくて気持ちいいね」
「わぷっ──げほっ! ──姫様っ! こんな、服も着たままで……!」
「セルフィがうだうだ言うからだよ」
「ボクのせいっ!? ボクが悪いの!?」
「もう、セルフィは真面目で可愛いなあ。うりうり、ここだってこんなに可愛いし」
「ひゃあっ! 姫様っ、胸当ての内側に手を入れなっ、んんっ……! だいたい、ボクのサイズは普通ですっ! 姫様のが大きすぎるだけっ……!」
「あー、ひっどーい。私のは牛みたいだっていうんだ」
「言ってないですっ! ──あっ、やだっ、そこだめっ、んああああっ……!」
結局、泉に浸かっている間、二人が新手のモンスターに襲われるようなことはありませんでした。
しかし、ほうほうのていで岸に上がったセルフィは、装備ごとずぶぬれになった姿で、ぐったりしていました。
「うううっ……身内に、モンスターがいた……」
「ちょっと虐めすぎちゃったかな。てへぺろ」
身内のモンスターは、まるで反省していませんでした。