エドワード・ヒュー
私の名は、エドワード・ヒュー……
いや、ロブ・バットと名乗っておこう。
大手出版社ワイルド・チェスト社のしがない評論家だ。
評論家といえば聞こえがいいが
毎日、書きたくもない「連合政府」の評論を新聞記事の隅っこに掲載しているチンケな者だ。
私がこうなったのも、ある本を出版したからに他ならない。
それは……世界の光と呼ばれた女性
太陽を代表とした「連合政府」を批判した本を、友人の助けを得て出版したからだ。
まぁ、自費出版といえなくもなかったが…。
彼女は人を狂信的に惹き付ける魅力を持っていた。
会った人間を、すぐさま虜にする……
人は彼女を「女神」と呼んだが、私には神話や童話で出てくる「怪物」のように思えた。
そんな彼女を狂信的に信望し、作り上げた「連合政府」に疑問を持つのは、私としては当然の事だった。
本の内容を簡単に言えばこうだ
カルト教のような政府に真の民主主義は存在しない。
民主主義とは政治と宗教を切り離さなければならない。
政治に「絶対神」はなく、国民の総意を持って国政を進めるべきである…と。
彼女が存在していない世界では、私の主張は当然であった。
しかし、彼女がいる世界では異端でしかなかった。
私の主張は世論に波紋を投げかける事もなく、連合政府によって闇に葬られた。
結果、私は当時契約していた出版社をクビになるどころか、本当の首まで飛ばされそうになったのだ。
私は顔を変え、国籍を捨てて「ロブ・バット」として生きていく事となった。
そう……評論家エドワード・ヒューは死んだのだ。
そんな思いをしながらも、私は再びジャーナリストとして生きていた。
この世界を変えてくれる人間が、いつか必ず出てくる事を願いながら…
そんな折、彼女が誘拐された事がニュースになった。
誘拐したのは、世界的に有名な犯罪組織「マッドカンパニー」に所属する暗殺者「シャドウ」と言う男。
いや、男なのかもわからない…
シャドウという人物は謎のベールに包まれていた。
ともかく、連合政府は彼女を失い、その政治基盤は大きく揺らいでいた。
そして一年後、各地の犯罪組織が次々と壊滅していくニュースを目にする。
シャドウが来る……
生き残った犯罪組織の人間は、この言葉を震えながら言うそうだ。
シャドウ……
彼女を奪った大罪人と言うものもいれば、世界を救う「守護者」と言うものもいる。
一体何者なのか……
彼を本格的に調べ始めた時、私のPCに1通のメールが届いた。
太陽の花の導くままに……影と太陽は一つになる
洒落た台詞だが、これはシャドウに依頼するときの暗号だ。
何故、私のPCに「暗号」が送られたのか分からなかったが、メールには地図と一言……
話がしたい
と書かれていた。
悪戯なのか……?と考えたが
私のような名の知れぬジャーナリストのPCに送る悪戯には思えなかった。
これはシャドウが送ったものでは?
そう思った時、私は地図に記された場所へと向かっていた。
正直にいうと半信半疑だが、生きる伝説となったシャドウと言う人物に会えるかもしれない。
そして、私はシャドウが指示した場所へとたどり着いた……