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8.心から願った人

評価、ブックマークありがとうございます。

更新が延び延びになってますが、必ず完結させます。


 



 私を助けてくれるとするなら、恐らく「彼」。

「彼」ならきっとここを探し出して、助けてくれる。

 エリザがそう信じる『彼』の名を小声で呟いたと同時に、扉が荒々しく開かれた。


「きゃ」


 扉から離れて話してはいたが、驚いたエリザたちは小さく悲鳴をあげて、抱き合って身を震わせた。


「ったく、同じ場所に二人閉じ込めるのは危険だろう! とにかく縛り上げろ。逃げる手段はないはずだが、念には念を入れておけ!」


 白髪の口髭を生やした人物が扉口で叫ぶ。

 部屋に体格の良い男が二名、紐を持って入り、エリザとティアーネを引き離して手際よく後ろ手に縛った。

 エリザを縛り上げた男は、彼女に小声で問う。


「お前、名は?」

「マリオン、です」


 その男は小さく頷き、手に持った布をエリザに見せて尋ねる。


「これはお前ものか?」


 そこにあったのは白地に小さな刺繍の入ったハンカチ。

 本当は自分の物ではないのだけれど。でも、その持ち主を知っている。


「はい」

「そうか。ならば、お前にこれを返そう」


 男はそれをエリザの手に握らせた。

 何故このハンカチをこの男は持っていたのだろう? 身元の確認のため、わざわざこれを?


「もーっ!」


 エリザが自分の言動に不審な所がなかったか振り返っていると、ティアーネの騒々しい声が発せられた。


「もう少し丁寧に扱ってくださいませ!」


 ティアーネもまた後ろ手に縛られていたが、屈強な男相手に怯えることなく文句を言っている。幸い、その男は気分を害する様子はなく、小娘の言い分を気にも止めず、鼻で笑って見ているだけだった。

 今、彼らの機嫌を損ねたら、ティアーネに危害が及ぶかもしれない。


「殿下。今は大人しく彼らに従いましょう」

「分かってますわ。でも、痛いんですもの」


 エリザの拘束に比べ、ティアーネの方がやや強めに結ばれているようだ。彼女は少々涙目になっていた。


「殿下は私とは異なり、非力でいらっしゃいます。どうか、少し弛めていただけないでしょうか」


 エリザは自分を拘束した男に、できるのならと願い出てみる。

 男は無言でティアーネの背後にいる男に顎で合図した。立場的に、エリザを拘束した男の方が上なのだろう。願いは叶い、舌打ちされつつも、ティアーネの縄は先よりも弛められた。

 ほうっ、とティアーネが安堵の息を吐く。

 エリザは肩越しに後ろに立つ男に礼を述べた。


「ありがとう、ございます」

「礼はいらない。お前らはいずれ菫の咲く野山で命尽きるだろうからな。一時の安らぎと思え」


 冷ややかな声にぞくりと寒気を覚えた。

 菫の咲く野山。それはもしかして―――


「終わったか」


 戸口にいた男が二人の男に確認する。そしてエリザを苦々しく睨んだ。


「あの男のせいで…っ! 計画が大分狂った。お陰でフェリウスと王宮の警護が強化されたぞ! 早急に計画の修正と伝達をせねばならん。階下に行くぞ。お前は戸口で見張っていろ」


 攫われたエリザには何の罪もないだろうに、その男は全てエリザが悪いと言わんばかりに言った。

 彼から見張り、とされたのはティアーネを縛った男だ。

 とりあえず、エリザは「マリオン」でいられたことに安堵する。もし自分が『エリザ』だと知れたら、あの男が言った『野山』へ行くこともなくその場で命はなくなっていただろう。

 二人は床に放られ、座りこんだ。

 そして、扉は閉められ、室内は再び二人だけとなった。


「エ…マリオン。私たちはどうなるのでしょう」


 依頼した通り、エリザを『マリオン』と呼んでくれたことにホッとする。戸口に立つ男には、二人の会話は筒抜けであろうから。

 不安げなティアーネに、エリザは笑顔を向ける。

 あの男は『お前らは命尽きる』と言った。恐らく二人ともいずれ殺されることになるのだろう。

 だが。


「先程も申しましたように、殿下は私がお守りします。必ずや助けの者が参りますから」


 そう。必ず助けは来る。それまでティアーネの命の時間稼ぎをしなくては。

 人質はその価値がある限り、生存できる率が高い。

 とすれば、ティアーネの存在が価値あるものにすればいい。そうである限り、彼女が生きる時間を稼ぐことができる。

 もし、どちらかが死なねばならない状況になったとき。その時は躊躇なく自分は『マリオンではない』ことを告げるつもりだ。

 そうすれば、エリザに人質としての価値はなくなり、選択肢は一つとなる。ティアーネを盾にしてベリアーノ国やフェリウスを脅す算段に即座に変更せざるを得ない。彼らは否応にもティアーネには生きてもらわなければ困るようになる。

 貴族として、国に貢献すべきとの分別と心づもりはある。

 トーヴィル侯爵に言われたのは記憶に新しい。


「アルベットではなく、お前が死ねばよかったのに」


 あの言葉を繰り返すことはしない。自分が生き残ったことで『ティアーネ様ではなくお前が死ねばよかったのに』などと国中から責められたら、この国での養父たちの立場が危うくなる。それは何があっても避けなければならない。

 何よりエリザは忌み子なのだ。この国において、何の価値もない存在。死ぬのならば、先ずは私だろう。命を懸けて守られるは、私ではなく目の前にいる可憐な王女であるべきだ。


「大丈夫です。私がお守りしますから」


 もう一度強く、安心させるようにティアーネに言った。

 命を懸けて、命を落としても必ず守ってみせる。

 エリザは、手の中にある布地をギュッ、と握りしめた。




お読みいただき、ありがとうございました。

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