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ゴスペル・コミュニケイト  作者: えんじゅ
前章――A.L.I.C.E.起動
9/37

第一の福音【灰銀の雹火】→


「――瑞樹(みずき)、逃げろっ!!」


 同級生の名前を叫んだ瞬間――目の前で青白い火花が散った。

 視界を半ば塗り潰して、不意に浮かび上がるウィンドウ。

 そこに映し出されたのは……俺とは違う位置に立つ誰かが、瑞樹へ迫っていく映像。

 これは――俺の視界に【mage】の視界が映っているのか!?


「……っ!!」 


 脳髄が幾つもの棘で締め付けられたような鋭い痛みに襲われる。

 激痛を堪えようと、歯の根を強く噛みながら、二つの視界により多角的に映る瑞樹の表情を確かめる。

 見慣れた筈の同級生の目は大きく見開かれたままで、その視線の向かう先は、仮初(ヴァーチャル)の存在である筈の【mage】を真っ直ぐ捉えていた。


 あいつの目にも見えている。


 確信した俺は、銀色に煌く火の粉を振り撒きながら瑞樹に急接近する【mage】へ狙いを定めて、目薬を投げつけた。

 やや遅れて、瑞樹も落ち葉を蹴ってこちらへ駆け出す。

 【mage】の視界が瑞樹を追う。

 そこへ、俺の投げた目薬――拡張されたハリボテソードが飛び込む。

 【mage】は両腕から燃え上がる銀色の炎を振り翳して、ハリボテソードを焼き払った。

 現実と虚像が混じり合った世界で、銀色の炎が溶かすのはハリボテソードのイラストだけだった。

 貼り付け対象の目薬はそのまま放物線を描いて落ち葉の中へ沈んでいく。

 【mage】の視界にも目薬は映り込んでいた。けど、あいつの炎は目薬を焼けなかった。

 電磁波で人の脳を浸食する事は可能でも、無機物には干渉できない。だから――


 【mage】の炎は実在する物体には届かないってことか。


「明君、これ、どうなってるの!? アクエリアスのメニューウィンドウが目に映ってて、それで、あの人はっ」

「落ち着け!! さっさと逃げるぞっ!!」

『世界終末の音の範囲外へ離脱できれば、第一福音(ファーストコード)も追って来れない筈です』

 思考停止しているのか、その場で硬直(フリーズ)している【mage】を横目に、俺達は公園の出口へ……「コンビニはあっち」と書かれた仮想標識を目指して走り出す。

 俺の視界の半分を奪う【mage】の視界が、俺達の背中を見据える。

 そして、視界の先へ腕を伸ばしたかと思うと、小さな反動に手首を揺らしながら銀色の火球を放った。


「やばいっ!! しゃがめ!!」


 瑞樹とアリスの頭を叩いて、寸で火球の軌道から逸れる。

 的を外した火球は、そのまま仮想標識へ着弾し、たちまちに炎波を広げていく。

 焼滅するデータをのみ込んで勢いを増す銀色の炎。

 公園の敷地線を喰らい尽くしていく炎に退路が絶たれてしまう。


「戦うしかないのか」


 たちこめる陽炎を忌々しげに睨みながら、呟く。

 

「戦うって、でも、あんなの、どうやって」


 瑞樹の声は震えていた。 


「ひとつだけ考えがある。瑞樹、クロスフォンは生きてるか?」

「うん、大丈夫」

「よし、なんでもいい、お前の画像フォルダにあるデータをそこら辺の落ち葉へ片っ端に貼り付けてくれ」

『アリスは、アリスは何をすればいいですか?』

「命を大事に」

『……はい』

 

 不服そうに頬を膨らますアリスを無視して、俺は【mage】の視界へ意識を集中させ、あちらの動向を窺う。

 瑞樹は理由も尋ねず、言われるがままに俺達と【mage】の間に積もる落ち葉へ無作為に画像を添付していく。


「明君、貼り付けてるよ!!」

「あぁ、見えてる」

 

 落ち葉に拡張された画像は「ヤムチャしやがって」のフレーズで有名な一場面を別作品のキャラで代用した……いわゆる雑コラ画像だった。

 うん、突っ込みたい。すごく突っ込みたいけど、緊迫した場が俺にツッコミを放棄させる。


「よしっ!!」


 己を奮い立たせるように短く吠えて、足を突き動かした。

 走る最中、落ち葉を拾い上げては【mage】目掛けてばら撒く。

 あっちの視界でヤムチャが所狭しとヤムチャしていくのを確かめて、俺は速度を上げる。


 落ち葉には雑コラによる目晦ましとは別に、即席プロテクトの意味合いも込められていた。


 銀色の炎がヤムチャを一人、また一人と焼き払っていく。しかし、実在する落ち葉には【不干渉】の警告文と同時にハニカム構造の防護壁(プロテクト)が発現され、炎を弾いているのだ。

 雑コラの氾濫を受けて混乱しているのか、あっちの焦点は頻りにぶれている。

 炎による反撃もいまいち定まっていない。

 無論、大量のヤムチャが無茶してくれているお陰で、あいつの目に俺の姿は見えていない。

 落ち葉を投げて走る、落ち葉を投げて走る、その繰り返し。

 だが、距離は着実と縮まっていた。


 不意に、一陣の追風に煽られて【mage】へ急接近する落ち葉、同期した視界に【接触注意】のメッセージが表示される。

 【不干渉】【接触注意】【不干渉】【接触注意】――人工知能の視界がエラーの洪水にのまれていく。

 思考回路のショートを裏付けるように【mage】が雑音(ノイズ)混じりの咆哮を上げた。


――今しかないっ!!


 力強く踏み込んだ。俺の瞳に【mage】が――【mage】の視界に俺が飛び出す。

 相手は足元から炎を渦巻かせて、自衛を試みようとしていた。

 対する俺は愚直に拳を伸ばすのみ……だが、その指の間には一枚の落ち葉を挟んでいた。

 瑞樹による現実拡張(画像添付)を免れていた落ち葉を密かに忍ばせていたのだ。

 【不干渉】の警告文と同時にプロテクトが起動し、炎の渦に亀裂を生む。

 ほぼ同時に、俺は両足で地を蹴っていた。


「チートなんかに頼ってる時点でお前は新参以下なんだよ……プレイヤースキル磨いて出直してこい」


 【ステップ】が発動する。

 刹那の無敵が、銀色の炎をすり抜ける。

 そして、【mage】の瞳に俺の拳が迫っていく。

 あとは叫ぶだけで充分だった。


「これは――ヤムチャの分だっ!!」


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