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ゴスペル・コミュニケイト  作者: えんじゅ
前章――A.L.I.C.E.起動
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増築記録→ロズリン礼拝堂

 老人でも(つまず)かないように配慮したのか……一段一段が異様に浅い階段が続き、続いたかと思えば床から膝丈程まで浮いたところに配置されている扉と遭遇し、更に階段を上がっていけばそのまま天井へと突き当たってしまう。

 幽霊から逃れるため、或いは幽霊を封じ込めるため夫人によって生涯繰り返された増築、そんな史実を引き継ぎたいのか、再現したいのか、第四福音が築く幽霊屋敷の内部空間は俺が持つ一般的な住宅のイメージがほとんど通用しない理外の様相を呈していた。

 アトラクションとして見れば星五つ、住み心地は毎日がSAN値チェックどうぞ、トイレへ行きたくなった時に迷子なってたら笑えない。

 そんな見当違いな心配をしながら歩いていると、不意に頭蓋骨を直接叩かれたような痛みに襲われた。


【ハイパーボッ】:あき氏、どしたん?


 異変を察知したのか前方を歩いていた二人が足を止めて、俺の方を振り返っている。

 すぐ側の燭台にいつのまにか火が灯っていた。熱は感じない。

 痛みの正体はこれかと、ぼうぼう揺れる蠟燭の火へ焦点を定めれば、フラグ回収と言わんばかりに壁面が薄れていき、人一人が通れる程度の細い通路が姿を現した。

 その先に扉がある、自然な様子で佇む扉は複雑怪奇な屋敷内において、かえって不自然さを孕んで見えた。

 なにか……導かれるようにして扉の取っ手へ手を伸ばすと、俺が掴むより先に鈍い音を響かせて開かれ、瞬間、視界が一変した。

 瞬きのタイミングに合わせたのか、もしくは集中力が途切れる一瞬の隙を狙ったのか、それとも数秒間だけ意識を失ったのか、突然の現象に理解が追いつかないまま……気付くと目の前には見覚えのある室内が広がっていた。

 親の顔より馴染みのある一室、仙台市泉区にあるアプリコット八乙女の一室、つまり俺の部屋。

 手を伸ばしたまま硬直している俺の視線の先には、兄さんと俺の姿があった。

 なにやら言葉を交わしている漆木兄弟の背格好から事態を把握する。

 それはいつかの一幕、こうして目の当たりにすることで改めて思い出すことができる褪せた記憶。


「本当にこんなことが……」


 自分の記憶を三人称視点で見せられている不気味さ、不可解さ、不自然さ、どう表現するのが適切なんだろうか。

 用件が済んだのか、兄さんがこちらへ――扉の近くに立つ俺の方を振り返って、そして、そのまま素通りして部屋から出ていこうとする。


「待って、兄さん」


 当時の俺には言えなかったことがある、今の今まで言えてないことがある。

 だから――と、伸ばしていた手は兄さんの体をすり抜けて、代わりに沈黙している過去の自分へすがろうとする。


「明! 落ち着くのじゃ!」


 声を張り上げて俺の腕を力強く掴んだのは、クロエだった。


「これはそなたの記憶で埋められた空間、して今この瞬間もそなたの脳から引きずり出している最中かもしれぬ、下手な干渉は避けるべきじゃ」


【ハイパーボッ】:待ってくれ

【ハイパーボッ】:ショタあき氏、こっちを認識してないか?


「第四福音の罠かもしれぬ、戻るぞ!」

「今度は俺の姿を真似てるっていうのか?」

「……趣味の悪い学習方法じゃな」


 最後の一言は俺の疑問に答えたというより、思わず不愉快さを言葉にして吐き出してしまったように聞こえた。

 そして、来た道を戻る、戻ったはずだった、しかし、扉の向こう側は幽霊屋敷の薄暗い廊下とは異なる明るさで俺達を出迎えた。


 まず眼前をシャボン玉が横切った。

 驚きで反射的に後ずさりしてしまい、背後から「あべち」とハイパーボッ氏の癖の強い悲鳴が上がった。

 謝ろうと振り返れば……扉が消えていて、見知らぬ室内が視界に広がっていて、同時にシャボン玉をぽぽぽと口元から宙へ生み出し続ける存在に気付く。


――小さな天使に見えた。冗談抜きで。


「もしかしてハイパーボッ氏の記憶?」


 一頻(ひとしき)りシャボン玉を吐き出し終えると、その子は淡い金色の羽毛みたいに軽そうな長髪をふわふわ揺らしながら、周囲を漂うシャボン玉を手の平へ着陸させようと追いかけ始めた。

 室内に整然と並んでいる長い木造りの椅子の間を器用に駆け回る天使ちゃん、その後方では大きな十字架と鮮やかなステンドグラスとが荘厳な存在感を放っている。


【ハイパーボッ】:クロエちでは?


「そのようじゃな」


 肯定するも、それ以上の言葉を、説明を継がないクロエ。

 ついさっき似たような現象を体験したから、彼女もすぐには理解が追いつかないのだろうと推測して様子見を決め込んでいると、空間の端っこの方の椅子からゆっくりと浮き上がる人影を見つける。

 腰が曲がっており杖を片手にして立った老人は、無邪気に走り回る天使へ向かって何やら言葉を投げ掛けた。


「英語か? 俺の学力じゃ聞き取れねぇ」


【ハイパーボッ】:ん、訛りが強いな

【ハイパーボッ】:スコットランドの方か?


「うむ、これは妾の記憶のようじゃ、しかし、どうやって……」

「え、まじか、じゃあ福音としての姿はアバターってこと? そのままゲーム内に実装されても違和感ないだろこれは、ぶっちゃけ天使かと思ったんだけど」

「妾あっち」

「あ、え?」

「妾はあっち」


 クロエが指差すのとほぼ同じタイミングで天使が老婆の元へ駆け寄っていく。


【ハイパーボッ】:合法ロリktkr


「なんていうか、ちょっとだけショック……俺ちょっと浮かれちゃってたもん、可愛い女の子に囲まれ、うお!! あっぶね!!」


 鼻の先を虹色の光線がかすめていった、こえーって。


【ハイパーボッ】:すいません、自重します


「オンラインゲームなんて皆そうじゃろうが! だーれが好き好んで老いた自分の姿でゲームしたいんじゃ?? 仮想世界でぐらい超絶美少女でおってもいいじゃろうが?? 妾がそれで誰かに迷惑を掛けとるのか?? 掛けておらんじゃろ!? どうなんじゃ!? あぁん!?」

「あの、現状、俺がこんな状態なのって……あ、いえ、なんでもないです」


 また撃たれそうだったのでお口チャック。


【ハイパーボッ】:教会に見えるんだが

【ハイパーボッ】:えと、シスターとかなん?


「表向きはそうじゃった……して、この場所はロズリン礼拝堂と呼ばれておる」


【ハイパーボッ】:それ、エルミナティ関連で調べた記憶あるんだが

【ハイパーボッ】:もっと大きかったような


「恐らくそなたが目にしたのは観光地として公表されておるロズリン礼拝堂じゃろうな、ここは別の場所なんじゃ……テンプル騎士団の間でロズリン礼拝堂の名が挙がるとき、それは公表されておる座標から北西へ数時間移動した先にある私有地を意味しておる……正確な座標は口外できぬし、そなたらにとっても知るべきではないだろうよ」

「テンプル騎士団の秘密の場所か」

「うむ、妾はそこであの子が育つのを見守ってきたのじゃ」


【ハイパーボッ】:あの子ってのは


「アリス……現騎士団総長アリス・ド・シャンブルじゃ」

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