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2つの星

 盗賊と言えばいいのだろうか? 目の前にいる人間たちは。下卑た笑みを浮かべ、手には花を持っていた。摘み取るまでは生き生きとし、溌溂とした可愛らしさが身に移るような容姿。だがその花は、今はぐったりと萎れている。

「あ? 何だよ? この妖精は俺たちが先に手に入れたんだ。ガキはすっ込んでろ」

 そうだ、盗賊ではない。ならず者と言う奴らだ。そいつ等はこちらに興味を失い、妖精の少女を鳥かごの様な籠にそっと入れる。

「いやーまさか妖精が手に入るなんてなー! しかも偶然、魔封じの効果のある籠を偶然持っていたなんてなー! そしたら偶然、妖精が通りかかって偶然こちらに気付かずに板からこっそり近づいて大声をあげたら気絶しちまうなんてなー!」

 チラッ チラッ

 何故かこちらを一瞥するならず者たち。彼らは、高く売れるぞー、とか旨いものが食えるぞー、とか目を付けていた女を買えるぞーとか、思い思いの欲望を口にしている。

「あと一歩速かったら手に入っていたのはおめぇだったかもな! ま、俺たちの方が運が良かったな! がはは!」

 リーダー格らしい男がバンバンとボクの肩を叩く。痛いからやめて欲しい。

「はぁ、それは良かったですね。ついてますね」

「だろ!?」

 彼らは顔を見合わせまた豪快に笑った。

「方向からして王都へ向かうんだろ? ま、何処かで会えたらおごってやるよ! じゃあな」

「はぁ、どうも」

 そして彼らは林から街道へ飛び出し、王都へ駆けていく。ボクはその後ろ姿を黙って見送った。


「ちょ、ちょっと待つデス~!」

 虫籠、じゃない鳥籠から甲高い少女の声が響き渡る。近くの木に止まっていた鳥がギャアギャア鳴いて飛び去っていく。体の大きさの割に大きな声だ。

「な、何で助けないんですか! というか何で助けないですか!?」

 両の人差し指を耳から抜く。妖精はちょこまかと狭い籠の中を動き回り身振り手振りで喚く。表情豊かで器用な子だ。

「普通、女の子がこんな男たちに拐されそうになったら助けるものだよね!?」

「え、そうか……な?」

 ボクは顎に手を当てる。そうか。そうか?

「考え込むようなことなの!?」

「だって多いじゃない。数。三人もいる」

 彼らはグヘヘ、と三流演劇に出てきそうな笑い声を上げる。似合うな。主役には向かないが、助演には向いていると思う。

「獲物も持っている」

 お腰に付けた大ぶりなナイフ。ショートソード。やや使い込まれるいるようだ。

「危険極まりない」

「ちげえねえ。長生きするぜガキ」

「ちょ、ちょっと! あなただって持っているじゃない!」

 籠の隙間からムリムリーっと音がしそうな勢いで顔面を突きだし、ボクの腰を指差した。

「自信ないな」

「そいつはいけねぇ。よし俺が命名してやる。そうだな、聖剣早撃ちってのはどうだ?」

「いや、意外と魔剣女泣かせかもしれないよ、ボク」

 ははは! 一緒に笑い合う。少女は訳が解らないようだ。うん、君はそれでいい。

「何一緒になって笑っているんです! このままじゃあわざとつかまった意味が無いよぉ!」

「わざと?」

 少女はしまった、という罰の悪い顔をして口を噤む。

「ふーん、訳ありみたいだね。どういうことかな?」

「シ、シリマセーン! ワタシ、サラワレソウナアワレナヨウセイサーン! タスケテー、タスケテー」

 人形のように表情を固め、口をパクパクさせタスケテータスケテーと繰り返す。

「よし、オジサン達サヨナラ! 今日はいいものを手に入れたね!」

「おう! 坊主も達者でな!」

 僕たちの間に爽やかな風が吹いた。それはこれから先、オジサン達の未来を祝福しているようだった。


~ fin~



「わ、わっかりました~! 言います! 言います! 助けてくれたら言いますよ~!」

「うん、素直な子は好きだよ」

 妖精の背後、籠を持つ男たちの雰囲気が険呑とする。

「坊主。おれたちゃ今、すごくいい気分なんだ」

「だね」

「ならよお、大人しくひいとけや」

 ドスの利いた声で、少年を睨みつける男たち。先ほどの和やかさは何処かに吹き飛んでいた。男の一人が一歩前に出て胸倉を掴み上げる。

「襟が伸びてセクシーになっちゃうよ。分かった引くよ」

 少年が一歩後ずさる。

「何だ随分素直だな」

 後ろの男たちが、へへ、と笑いあうが胸倉を掴み上げた男は微かに震える。

「おい、さっさと……」

 籠を持つ男が震える男の肩を掴み後ろを振り向かせようとすると、どさり、と思い音を立て崩れる。うつ伏せになった体の下から血が染み出る。少年の手には一振りの剣が握られていた。

 怒号が空に吸い込まれ、二つの煌きが男たちの手に握られた。



「うぐ、うう……ごほっ」

 口に入った砂を吐きだす。席の痛みで涙が出る。唾液と共に砂を吐きだすが、完全には出せずにじゃりじゃりとした不愉快な感触は口の中に残っている。地面の砂と石のざらざらとした感触の中から眼鏡を見つける。

「ここは、どこ……なんだ」

 僕は呆然としていた。僕は裁判所から父と共に家路に着いて……。

 地面は砂と石ころまみれ。空はない。鬱蒼とした枯れかけの樹木が生い茂っている。

「どこ……なんだ、よ」

 じきじきじき。何か聞こえる。酷く不快で、不安をさらに増すような耳障りな音。

「だ、誰かいませんかーーー!!」

 声の限り叫ぶ。乾いた喉で叫んだので、また咳込む。声は闇の向こうに吸い込まれる。

 じきじきじき。音が近くなる。心臓の音がうるさい。

「な、んだ、よ。ここ」

 不快な音が不意に止まる。目の前。やや大きな岩がある。その上。

 僕の思考は停止した。

 アレハナンダ。

 芋虫を思わせる節のある胴体。1mはあるそれの腹部には蟻の足の様な節足が規則的に生えている。そして、頭部。白い能面を思わせる顔。人間の顔に似ていなくもないそれは吐き気を催す不愉快さを醸しだす。

「うっげ、げええ!」

 思わず吐瀉する。胃の中の物が溢れる。



 ココハ      ドコナンダ

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