子供達の恋愛論 その3
子供達の恋愛論 その3
〜長男 秀司の場合〜
「ねえ、秀司…。
六家の方々にバレンタインのお返しは…、どうするの?」
恐る恐る伺いをたてる夏流に、秀司はにっこりと微笑んで返答した。
まあ、何時見てもなんて澄んだ笑みでしょう!我が息子ながら心が洗われる様だわ…と夏流は心のなかで感動した。
それ程、秀司の微笑みは慈愛に満ちていた。
何度も強調して言うが…、まだ8歳である。
「僕としては愛を捧げて頂いたのでそれ以上のモノでお返ししないと、と思っていますが、お父さんにお返しの事を伺うと、お返しは3割増でしないといけないとの事。
だけど、愛の3割増と申されても、測られるモノではないと思いますので、僕は僕の真心の証を捧げたいと思います。」
もう8歳の言葉とは思うのをよそう…、と夏流は心の中で溜息をつきながら、秀司に続きを催促した。
「志穂さんにはサファイア、朱美さんにはルビー、そして真季子さんにはアメジスト、紀子さんにはエメラルド、百合子さんには真珠、そして留美さんにはダイヤモンドの指輪を差しあげたいと思い購入しようと思っています。
皆様の誕生石を教えて頂きたいと伝えますと、頬の染めてお返しには僕から指輪を頂きたいと…。
僕はその時の感動を、どう、お母さんにお伝えしていいのか解りません…!
あんなにも愛らしくて、そして可愛らしい女性を僕はこれ迄見た事がありません。
彼女達は本当に純真で、そして僕を心から愛して下さっている。
ああ、僕は本当に幸せ者です!」
秀司の最後の言葉を聞き終えた夏流は、心の中でやっぱり秀司も忍の息子だわ…と、変に納得した。
情熱的に愛の言葉を紡ぐあたり忍よりも上手かも、と思いつつ、8歳で既に6人の女性と真剣な交際を行っているのか、と夏流はハーレム状態な息子を微妙な気持ちで見つめていた。
世の中、どうして精神年齢と実年齢が伴わないんだろうか…?
秀司を見ていると、自分と忍よりも遥かに大人ではないか…!、逆に教えられる事が多いではないか、と夏流は秀司を違った側面で見る様に心掛けた。
そう考えないと自分の中の常識が精神を圧迫させ、崩壊させる、と自己防衛する当たり、夏流の精神は追いつめられていた。
そんな夏流をどう感じ入ったか秀司は一言夏流にこういった。
「お母さん…。
愛の前では常識も何も存在しません…!
全てが凌駕されるのです。」
にっこりと微笑む秀司を見て、夏流は既に考える事を放棄した…。
〜志津流の場合〜
「ねえ、志津流…。
豪伯父さんから、その、お返しは頂いたの?」
恐る恐る伺う夏流は志津流は複雑な表情で答えた。
「頂いたけど…。
もう、豪伯父さまったら、どうして私が欲しいと思う物を送って下さらないのかしら!
私は真剣なのに…」
志津流の強請った物がなんだったのか気になる夏流は、志津流に問いただした。
「…婚姻届よ、ママ。
16歳になったら則、豪伯父様と結婚したいと言ってるのに、伯父さまったら笑い飛ばして真剣に受け取って下さらないのよ!
ママ…。
私、本当に豪伯父様が好きなの…!
彼が全てなの!
彼以外に好きな男性は存在しない!
それ程、彼を愛しているの。
私の運命の人なのよ…」
わんわん泣き出す志津流を見て、夏流は血の気が引き、言葉を失った。
既に7歳で運命を唱え、豪に真剣な想いを抱いている…。
(もう、どうして秀司も志津流も子供らしい言葉を使わないの?
これも私が昼ドラにハマっている所為とは言わないでよ…。
最近、流石に志津流の言葉使いを気遣って、録画して夜中に見ている様にしてるんだから。
忍にはねちねち嫌みを言われてるけど。
なのに、どうして???
ますますエスカレートしているじゃないの!
もおお、いやああああああ!!!)
蒼白になりながらも志津流を慰めようと言葉をかけようとした瞬間、何を思ったか、志津流はぽそりと、呟き始めた。
「…正攻法でするからいけないんだわ。
そうよ、志津流。
既成事実って言う言葉が存在するじゃない。
豪伯父様を押し倒したらいいのよ!」
いい終えた志津流の言葉に夏流は、「な、何を言ってるの、志津流!」とパニックを起こし、その場にて倒れてしまった。
ベットでうんうんと唸りながら夏流は、「もう昼ドラなんて絶対に見ない…!」、と大声で叫んでいたそうな。
〜次男 夏貴の場合〜
「ママ♪
バレンタインのチョコレートのお礼」
そう言いながら夏貴は夏流にぱたぱたと駆け寄り、唇にキスをした。
勿論、目の前に忍がいるのを知っての行動である。
ちゅっと、キスを終えた夏貴が頬を染めて夏流から離れる。
あああ、なんて可愛いの!これこそ、本来の子供のあるべき姿!と夏流は夏貴の行動に深く感動していた。
息子の愛らしい仕草に夏流は目を潤ませ、満面の笑顔を向けていた。
「ママ、大好きだよ。」
「ママも夏貴が大好きよ〜」
2人の間に流れるほのぼのとした空気を、一瞬にして忍がぶち壊した。
そう、嫉妬に駆られた忍があろう事が、夏貴の前で夏流に濃厚なキスを与えたのであった。
夏流は、一瞬、自分がどんな状況に陥っているのか解らなかった。
忍は何度も角度を変え、舌を絡ませキスを繰り返しながらも、視線は夏貴に注がれていた。
夏流は俺のモノだ、と言わんがばかりの忍の視線に夏貴は無言のまま見つめていた。
殺気を漂わせる視線が忍に送り返される。
いつの間にか、絶対零度な空気が2人の間に流れてた…。
最初は抵抗していたものの、忍の与える口づけに自ら応対している自分に端と気付き、慌てて忍から離れようとするが増々キスが深くなる始末。
身体の力が入らなくなっている様子に満足した忍は、唇を放しながら夏流の耳元でこう囁いた。
「口直し」
忍の言葉を聞いた途端、朦朧としていた意識が戻った夏流は、肩を震わせながら忍の頬を思いっきり引っ叩いた。
「息子の前で一体何するのよ、この人は〜!!!」
夏流の怒りを呆然と受け止めながらも、忍は冷ややかな口調で夏貴に言い放った。
「息子であろうが誰であろうが、夏流にキスするのは許さない。
無傷であった事だけでもありがたいと思え!」
忍のとんでもない言葉に夏流は更に怒りを爆発した。
「こ、この人は何を言ってるの?
む、息子に迄嫉妬してどうするの?
も、もう、何考えてるのよ〜!!!」
金切り声で叫びながら文句を言う夏流に近づき、更に深い口づけを与える忍に、夏流は思いの限り抵抗したが、最後には忍のいい様にされる始末。
目の前で繰り広げられる2人の行為を見ながら、夏貴はぼそりと静かに呟いた。
「…何時か抹殺する…」
暗い感情を灯す夏貴の言葉が2人に聞こえたかどうかは…、定かではなかった。
いや〜、書いていて、いるのだろうかこんな子供って思いました…(苦笑)