子供達の恋愛論 その2
子供達の恋愛論 その2
〜長男 秀司の場合〜
「ねえ、秀司。
今年のバレンタイン、どうだった?」
夏流の問いに秀司は穏やかに微笑みながら、夏流に返事をする。
相変わらず、この子は本当に自分の息子だろうか?、と疑問を持つ程、秀司は何事にも穏やかで落ち着きはらっている。
8歳とはとても思えない…。
「ええ、今年は何人かの方にチョコレートを受け取って欲しいと声をかけられましたが、僕には既に頂く方が決まっているので、丁重にお断りさせて頂きました。」
秀司の物言いに、夏流は暫し言葉を詰まり発する事が出来なかった。
かろうじて言えた言葉は「そ、それは誰?」のただ一言。
夏流の問いに秀司は深い笑みを浮かべて返答する。
「はい。
「六家ガールズ」と呼ばれる、高槻志穂さん、宮野紀子さん、更科真季子さん、本間百合子さん、笹崎留美さん、そして…朱美さんです!
僕にはとても勿体ない方々ですが、皆様、僕に永遠の愛を捧げたいと申されてチョコレートを下さるので、そのお気持ちに添えたいと。」
「しゅ、秀司…!」
「はい?」
「…それ本気?」
「勿論です。」
にっこりと微笑む秀司の笑顔が一つの曇りも無い程、光輝いている。
まあ、なんて慈愛に満ちた笑みなんだろう…!と秀司の微笑みに魅入られた夏流は一瞬、言葉を忘れていたが、はたと意識を戻し、改めて秀司に問いただした。
「ねえ、秀司…。
秀司と六家の方達との年齢差って、知ってるよね?
それに大勢の人とお付き合いするのがどういう意味か、知ってるよね?」
恐る恐る問いただす夏流に秀司は、至極真面目に返答した。
「ええ、お母さん。
勿論、全て解っています。
だけど、この世の道理で物事が片付けられない事もあるのも、僕は理解しています。
あの方達は、いえ、僕はあの方達を幸せにする為にこの世に生を授かったと思っています。
そしてあの方達が僕を愛する為にこの世に生を授かった事も…。
僕の身体に流れる遺伝子が彼女達を求めて止まないんです。
そして、彼女達も僕を心から慕ってくれる…!
僕は皆をこの手で幸せにしたいんです。」
秀司の言葉を聞いた夏流は、余りにも考えられない秀司の言葉に目眩を起こし、その場にて倒れてしまった。
うんうんと唸り寝込んだ夏流を側で見ていた子供達は、「ママって、本当に柔軟性に欠けるのね…」と子供らしく無い言葉を囁ていたそうな。
〜志津流の場合〜
「ねえ、志津流。
バレンタインのチョコ…、坂下の豪叔父さんに送ったの?」
既に志津流が豪に好意を持っている事を知っている夏流は、恐る恐る言葉をかけた。
夏流の言葉ににっこりを微笑む志津流。
その笑顔にどきりとしながら、夏流は、あと何年もしたら、殆どの男性を虜にするだろう…志津流を眩しそうに見つめた。
それ程志津流はとびっきりの美少女であった。
但し、いくら他の男性に熱烈にアプローチされても、靡く事も無い程、豪にぞっこんだ。
秀司といい、志津流といい、どうして年齢が激しく年上な異性を求めるのだろう?と夏流は、志津流に視線を投げ掛けながら考えていた。
その視線をどう感じ取ったか志津流はつん、とそっぽを向きながら夏流に話しかけた。
志津流の仕草に流石、忍の娘だわ…、と夏流は心の中で微笑んだ。
「当然でしょう、ママ!
私の想い人は豪叔父さんただ一人だもの!
他の人達が私の愛を欲しいと強請っても、そうやすやすとあげる事は出来ないわ。
喩えチョコレートでも!」
志津流の言葉に夏流は、「また連続ドラマを見て言葉を憶えたのね…」、と心の中で自分が昼ドラに夢中な事に反省した。
夏流の項垂れる様子に、「ママって、本当に頭が硬いのね…」、と心の中で呟いたそうな。
〜次男 夏貴の場合〜
「ねえ、夏貴。
今年、バレンタインのチョコレートを貰った?」
夏流の言葉に、夏貴は満面の笑顔を向けて答えた。
「うん、くれる人が沢山いたけど…。
僕、ママがくれるチョコレートが一番好きだから、断ったよ♪」
「な、夏貴…」
ほろり、となる程、嬉しい言葉をくれる次男に、夏流は思いっきり抱きしめた。
心の中で「ああ、これが本当に本来の子供らしさと言うものだわ…」、と力説していた。
そんな2人の様子に、ぴくりと反応に、不機嫌な様子を漂わす忍。
かける言葉まで不機嫌さを表す様子に、夏流はほとほと、うんざりとしていた。
「おい。
毎回、俺の存在を知っての行動だよな…?」
忍の言葉をどういう風に取ったか、夏貴はにっこりと微笑んで忍に返事をした。
「そういう言葉を言うと、何時かママに見捨てられるよ、パパ…」
夏貴の子供らしく無い言葉に、夏流は一瞬、その場にて硬直してしまった。
「夏貴!」
「でも、僕はその方が嬉しいけど。
ママを僕の手で幸せに出来るから♪」
「…」
夏貴の言葉に挑発され全身に殺気を漂わす忍に、夏流は呆れ果ててしまった。
2人の中に漂う剣呑な空気の中で夏流は、「はあ、どうしてこうなるんだろう…?」と、深く自分の立場を感じ入ったそうな。