子供達の恋愛論
子供達の恋愛論
〜長男 秀司の場合〜
「ねえ、秀司。
秀司は誰か好きな女の子っているのかな…?」
母、夏流の言葉に秀司は穏やかに微笑んだ。
まだ8歳なのに、この老成した微笑みはどういう事だろうか?と時々、夏流は秀司を不思議な眼で見つめる。
それ程秀司は全てに置いて小学生らしく無い程、落ち着き払っていた。
「そうですね。
六家の皆様は、それぞれ素晴らしい女性ですが、僕はやはりお母さんが一番素晴らしいと思っています。
なので、僕が好きな女性はお母さんだと言う事になりますね。」
花の様に綺麗な笑顔で微笑む秀司の言葉に、夏流は「この子、本当に私と忍の息子よね…?」と心の中で考え込んでいた。
ああ、末恐ろしい小学生。
〜長女 志津流の場合〜
「ねえ、志津流。
志津流は誰か好きな男の子っているのかな…?」
母、夏流の言葉に志津流は引き出しから、束ねられたラブレターを取り出す。
差し出す志津流に、夏流は「え、読んでいいの?」と尋ねる。
「うん、だって、皆、同じ言葉しか書いてないもん」
志津流の言葉に頭を傾げながら夏流は、中を開いて読んだ。
文面に書かれる賞賛と美辞麗句に真っ赤になりながらも送り主を見た途端、「え、六家の息子さん達じゃない、志津流!」と狼狽えながら娘に言葉を放つ。
「そうなのよ、ママ!
でも、本命の彼からお手紙を貰えなくて…。
志津流、その人以外は眼中に無いから。」
「が、眼中に無いって…。
し、志津流、だ、誰なの、それは。」
夏津の言葉に頬を染めながら、もじもじと言葉を紡ぐ。
「え〜、ママ、解るでしょう?
坂下の豪伯父様。
優しくて、あの人の良さそうな笑顔。
もう、理想だもの!
志津流は二十歳になったら、豪伯父様に結婚を申し込むの。
美樹伯母さまには悪いけど離婚して頂きます。」
志津流のとんでもない言葉に夏流は顔面蒼白になった。
「し、志津流…。
な、何言ってるの?
あ、貴女、まだ7歳でしょう?
それに離婚って言葉、ど、何処で知ったの?」
にっこりと満面の笑顔を浮かべながら、志津流は夏流に答えた。
「ママが毎日見ている連続ドラマで言ってるじゃない。
それに恋に年齢なんて関係ないって、そう言ってるよ♪」
志津流の言葉に夏流はがっくりと肩を落とし、暫くの間、その場から動く事が出来なかった…。
その夜夏流は高熱を出し、うんうんと唸りながら「私の教育は間違っていたのかしら…」と呟いていたそうな…。
〜次男、夏貴の場合〜
「ねえ、夏貴。
夏貴は誰か好きな女の子がいるのかな…?」
夏流の突然の言葉に、夏貴はすかさず「ママ」と、夏流を指差した。
夏貴の言葉に瞼が潤み、思わず夏貴を抱きしめる。
「ママも夏貴が大好きよ〜」とぎゅっと抱きしめられた夏貴は、「僕も〜」と答え、夏流を思いっきり抱きしめ返す。
「僕たち、ラヴラヴだね〜♪」と言う夏貴の言葉に、側で見ていた忍が咄嗟に突っ込む。
「…おい、俺の存在を忘れては無いか、夏流!」
ぶすっと不機嫌な忍に、「あら、焼いてるの?」と、けたけた笑いながら夏貴の髪の毛を梳く。
うっとりとする夏貴の様子に益々不機嫌さを募らす忍に、流石の夏流も溜息を漏らし、うんざりした様子で言葉をかけた。
「もう、息子に嫉妬してどうするの?」
夏流の言葉に忍は真顔で答える。
「息子に嫉妬して悪いか…!
最近、夏流は全然、俺の事構ってくれないじゃないか…」
悲壮感漂わす忍の声音に夏流はほとほと呆れてしまい、どう反応していいか解らなくなっていた。
そんな忍に夏貴は一瞥をし、淡々と言葉を紡ぐ。
「パパ、またママを困らせている…。
だからママが僕の事を好きになるんだ。
ママ、僕、大きくなったら、ママのお婿さんになるからね!
幸せにするから、僕が大きくなる迄待っててね♪」
夏貴の言葉に忍が一言、「ママはパパのお嫁さんだから、夏貴はお婿さんになれないの!」と冷ややかな声で言い放つ。
忍の言葉にみるみる涙が溢れ、わんわんと泣き出す。
「ママ、パパが言う事は嘘だよね?
だって、ママ、僕のお嫁さんになってくれるって言ったもん。
パパの嘘つき〜!!!」
泣きながら話す夏貴の言葉に忍は蒼白になり、夏流に「今の話は本当か…?」と、縋る様な眼差しを向ける。
そんな忍に夏流は呆れ果て、「子供の言葉を真に受けてどうするの?」と冷たい言葉でその場を治めた。
その夜、忍は書斎にあるテレビ電話で、透流に明け方迄散々愚痴り、夏流に構ってもらえない鬱憤を晴らしたそうな…。