秀司と華麗なる六人の婚約者達
Act.1 秀司と華麗なる六人の婚約者達
初めてあった時から、俺はあいつの事が理解出来なかった。
いや、俺だけではなく常識のある人物なら誰でも、と言うべきではなかろうか…。
父親の従兄弟である成月夏流おばさんには、3人の子供がいる。
長男秀司、長女志津流、そして次男夏貴と…。
皆、驚く程顔が整っている。
初めて会った時、まるで生きた人形かと思った位だ。
それ程、彼らは今迄の人生で出会った人物の中で、最高に綺麗な顔立ちをした兄弟だと思っている。
長男の秀司は俺と同じ年で今年、中学一年。
こいつを見ていると、本当に俺と同じ年か、と疑いたくなる。
身長は167センチ。
眉目秀麗、頭脳明晰、性格は穏やかで悟り切った、まるで仙人の如く出来た人物である。
但し、女性関係では、こいつは俺の常識を逸している…。
あ、言い忘れたが、俺の名前は、杉原智流。
身長は160センチ、顔はまあ、程々整っていると思う。
秀司や、志津流ちゃん、そして夏貴を見ていると、美的感覚がおかしくなって自分がどの程度のものか、実はよく解らない。
まあ、何人かの女の子に告白されているのでモテる方だろう、多分。
話が反れてしまったが、秀司の事を。
そう、先程、秀司の女性関係の事を呟いたが…。
俺があいつの女性関係を目の当たりにしたのが、あいつが中学進学の為にこちらに単独で引っ越してきた時の事だった。
本来なら、祖父である坂下の本家に暮らすのが筋だと思うのだが、あいつは成月の祖父が残したマンションに一人で暮らす事になっていた。
最初、俺はそれが許される事なんだろうか…?とかなり疑問符が頭の中で飛び交った。普通、常識で考えてみろ。
まだ中学一年だぞ。
一人で何が出来ると言うんだ?
それによく、夏流おばさんが許したな。
あの、過保護な迄に子供を可愛がるおばさんが…。
秀司の一人暮らしの事を聞くと、叔母さんは何処か遠い目で俺を見つめた。
深いため息を零しながら。
ぽそり、と呟いた言葉に俺は軽く頚を傾げた。
「いいのよ、秀司は。
あの子は既に私達よりも世間を知っているから。
はああ、やっと私は自分の常識と精神と安定と、そして心からの平和を手に入れる事が出来るわ…。」
涙ぐむおばさんを見て、俺は秀司がおばさんに一体何をしでかしていたのか、好奇心に駆られた。
その好奇心が驚愕に変わったのが、これが次の日の事。
引っ越しの手伝いに秀司の住む、超高級マンションに赴い時の事だった…。
「ああ、智流。
ありがとう、わざわざ引っ越しの手伝いに来てくれて。」
穏やかに微笑みながら秀司は俺をマンションの中に案内した。
リビングに入った途端、俺は目の覚める程、綺麗な女性達に歓迎された。
(うわ、何だ、このゴージャスな迄に綺麗な女性達は!
それも、ろ、六人も…!
夏流おばさんも綺麗な人だと思ったけど、この人達も物凄く美人だ…!
な、なんでこんな超美人が秀司のマンションに…。)
あんぐりと口を開け、惚けている俺に秀司がにっこりと微笑んで俺に美女達を紹介した。
「ああ、智流。
彼女達を紹介するよ。
右から、坂下朱美さん、高槻志穂さん、更科真季子さん、宮野紀子さん、本間百合子さん、笹崎留美さん。
皆、僕の最愛の方であり、婚約者でもある女性達だ。」
「…」
「智流も彼女達の美しさに、感動して言葉が出ないんだね。
とてもよく解るよ。
彼女達の美しさを一番、理解しているのが僕だと自負しているから。
ああ、僕は彼女達と愛を交わせて本当に幸せだよ。
智流にも僕の想いが伝わって、とても嬉しいよ。」
零れん迄の笑みを浮かべて俺に告げる秀司を見つめる美女達の表情。
皆さん、蕩ける様な笑みを浮かべて秀司に熱い視線を送っている。
その視線を受け止める秀司の幸せそうな顔に、俺は暫し言葉を失った。
(い、今、こいつはなんて言った?
こ、婚約者???
一人、ではなく六人?
ほ、法律でそれは許されるのか?
い、いや、法律云々より、先にこの美女達と秀司の年齢差だ。
今、秀司は12歳だぞ。
ど、どう見たって美女達は20代後半か、30前だと推定しても、最低でも15歳は離れている。
ほ、本当に愛し合っているのか、6人の美女達は秀司と?
あいつはまだ、未成年だぞ。
は、犯罪じゃあないのか?
ああ、夏流おばさんが言った言葉はこれが言いたかったのか…。
確かに、一般常識では考えられないな、これは…)
ぐるぐると目眩を起こしそうになる俺の肩に秀司がそっと手を置いた。
そして、ぽそり、一言俺に囁いた。
「愛は全てを凌駕するんだよ、智流。」
そう言葉を告げる秀司は花の様に綺麗に微笑んだ。
その麗しい笑顔にきゃあきゃあと歓声を送る美女達。
「きゃああん、秀司さん!
なんて素敵なの!
真季子は貴方に愛を捧げる事が出来てとても幸せです!」
「まあ、真季子。
貴方だけではないわ。
秀司さん、私も貴方に永遠の愛を誓えて誰よりも幸せです。」
「秀司さん、貴方は私の全てです。
貴方を愛しています…!」
「私は貴方に出会う為に生まれて来たと思っています。
秀司さん、我が愛…」
「言葉なんて必要ないわ。
だって、貴方の事を称える言葉なんて、この世界にあるとは思えないもの。
いえ、只一つだけ存在するわ。
それは、秀司さんと言う言葉だけ。」
「愛しています。
ああ、秀司さん。
愛おし過ぎて、狂う程、貴方が欲しい…!」
(な、なんだ?これは…。
この激しい迄に自己主張しながら告白する美女達は…。
み、みんな、異常過ぎる…。
おいおい、相手は12歳だぞ…。
わ、解っているのか…。
ああああ、俺の中に常識が警告音を鳴らす。
これ以上、こいつに関わるなと。)
血の気が失せ、体中に冷や汗が流れ、意識が遠のきそうになりそうな自分をどうにか律して、俺は秀司達を見つめていた。
心に何度も真言を唱えながら。
(そう、俺はまだ、だ、大丈夫だ…!
これくらいまだ常識の範囲として捕らえる事が出来る。
そうだ、年の差カップルなんて今時、世間で騒がしている事だし、今更だよ。
あはははは、そうだ、そうだ。
これくらい、まだ守備範囲だ。)
と、思いきや、秀司の行ったとんでもない行動が、辛うじて繋がっていた常識の糸を断ち切った…。
(…え?
秀司、お前、何を…?)
俺の視線をばっちり受け止めながら秀司は、菩薩の様な笑みを浮かべ美女達の前に向い、そして…。
俺の目の前で熱いキスを美女達に与えていた…。
それも唇に直に…!
「しゅ、秀司。
お、お前…????」
わなわな震える俺に深く微笑み、美女達とのキスの合間に秀司がこう言葉を紡いだ。
「ああ。
何時もの事なんだ、智流。
僕の愛の深さを彼女達に訴えるのには、これが一番の表現だと思わないか?」
「…」
「愛している。
僕にとって、貴女達は何ものにも代え難い。
僕の全てです…!」
秀司の愛の告白の言葉を聞いた途端、俺は完全に意識を手放した…。
その後、顔を引き攣かせながら美女達と秀司の年齢差を夏流おばさんから聞いた俺は、秀司のはとこである己の運命に、
深く、ふかーく、嘆いたのであった。
そう、これもまた運命…。
(ああ、俺も父さんと同じ道を辿るんだな、きっと…。
忍おじさんの下らない愚痴を毎回逐一聞く、律儀と言うか、アホと言うか、本当に情けない位にバカらしい末路を…。
いや、俺の場合は、愚痴ではなくノロケか…。
あはははは、はあああ…)
ああ、我が人生に幸あれ…。