悪足掻き
丁度、二十四時間後−…
綾希の頭の中に死に神の言葉が何度も巡った。ふと手が震えているのに気が付いて、もう片方の手で咄嗟に押さえた。その時綾希はあることに気が付いた。そして綾希はそっと立ち上がるとあるだけの金をかき集めだし、財布に入れた。リビングに下りて保険証も取りに行き財布や定期等と一緒にカバンに雑に詰め込んだ。夜に充電しておいたケータイも滑り込ませる。そのあと急いでたんすからてきとうに服を取り出して着替え始めた。死に神はそんな慌ただしく動く綾希をただじっと見ている。綾希は死に神のことなど気にもかけずバタバタと仕度をし、机の上に「用事ができたので、出かけます。」とだけ書いたメモを置いて家を出ようとした。玄関のドアを開けようとした時だった。
「何をする気ですか?」
後ろから落ち着いた声がした。綾希はすぐに振り返る。死に神はじっとこちらを見つめていた。
「病院、行くの。」
焦りがあるようだった。そして再びドアに手を伸ばした。
「何も変わらないのにですか?」
伸ばしかけた手がピタリと止まった。死に神は続ける。
「あなたが死ぬことは既に決定事項です。それに綾希さん、あなた現時点ではいたって健康体、悪いところなんてありませんよ。」
だから病院に行ったところでなにも変わりません。そこまでは言わなかったが綾希は死に神の言いたい事が容易に想像できた。嘘ではないことも何となくだがわかった。まるで死に神に全てを見透かされている、そんな気がした。だがどうしても死にたくない。諦めきれなかった。綾希は死に神の横を通り過ぎ、ドアの外へ出た。一面の朝焼けが綾希の目に飛び込んできた。鍵を掛けてから時計を確認する。もう後戻りはできない−…
綾希は少しの希望にすがるように歩き出した。