変化Ⅰ
沈黙に耐え切れなくなったのは綾希の方だった。
「あのさあ、私これからどーすりゃいいわけ?もうこれで何もないなら寝るけど。」
枕の位置を整えて寝る態勢に入る。そして寝転がろうとした時だった。
「待って下さい。」
死に神が綾希の手を掴んだ。相変わらず冷たい手だった。綾希は気味が悪くなりその手を振り払った。
「ちょっ…離してよ。で、何なの?まだ何かあんの?」
外はうっすらと明るい。明日、というか今日も学校があるのだ。数時間しか寝ていないし、死んだりもして疲労はピークに達していた。今思えば死について聞く必要など全くなかった。自分は今生きているのだから。それなのにまだ寝せまいとする死に神に綾希はまたいらついていた。いちいち人をいらつかせる死に神だと綾希は思った。綾希は死に神を睨みつける。どうせまたお決まりの無表情を貫き通すだろうと思っていた。しかし死に神を見るとそうではなかった。困ったような、迷っているような、そんな表情をしていた。ここへきて初めて見せた表情で綾希はなんだか悪い事をした気分になった。
「あ…あの、死に神?」
名前を呼ぶとハッと我に返ったようにまたいつもの無表情に戻った。
「あ…すみません。」
そしてまた困った表情に戻る。なんだか落ち着きがない様子だった。
「あの…えっと」
綾希と外を交互に見てもぞもぞと喋りだす。さっきまでとは大した違いだ。綾希はこういった事に苛立ちを覚える性格の人間だった。始めの方はなんとか堪えていた。自分だって疲れているし怒りたくなんてない。綾希は怒りをなんとか抑えつつ、死に神が話し出すのを待った。