停滞
綾希はイライラしていた。理由は二つ。さっきから何を聞いても抽象的な答えか「わからない」しか返って来ないことと、死に神の態度である。なんとかこの事態を理解しようと質問をする綾希に対して死に神は質問には答えるがそれ以外は何か考えるそぶりもなく、ぼーっと窓を眺めている。綾希はまた別の質問を考えたが何を聞いても結果は同じような気がしてどうしたものかと頭を悩ませていた。
「…一つだけ、」
死に神が突然話し出し、綾希は少し驚かされた。
「一つだけ、覚えています。初めて目が覚めたのは、公園だった。月の綺麗な晩でした。」
死に神はその時のことを懐かしむように目を細めた。
「へえ…そうなんだ。この際だから知ってる事全部教えてくれない?死に神とか死について。」
綾希はベッドに深く座り直し足を組んだ。始めからこう聞けばよかったのだ。少し後悔の念がよぎった。しかし死に神は首を横に振った。
「残念ながら死について私がわかるのはさっき言ったことぐらいです。しかも誰かが死ぬ時も予定時間の少し前になって初めてわかるものなんですよ。」
「あぁ、そうですか…」
また振り出しに戻った、と綾は落胆しベッドにドサリと寝転がる。だんだんやる気がなくなってきた。それも無理はない。少し前までは普通の日常があったのに。ここ数時間で事態は豹変した。死に神が現れ自分は一度死に、何故か生き返り死に神も理由がわからないという。おまけに何を聞いても知らぬ存ぜぬだ。誰かに話したら一体、何人の人が信じてくれるだろうか。多分信じてくれるのはオカルト好きなマニアくらいだろう。綾希本人でさえ未だに実感がわいてこないのだ。綾希は質問も尽き黙り込んだ。死に神も黙っている。二人が何も話さなくなって数分が過ぎたがどちらとも口を開く様子はない。
外は朝日が昇りかけていた。