二人の疑問
再び静かになった室内。先に沈黙を破ったのは綾希だった。
「あのさ、ところで人の生き死にって死に神…あんたが決めるの?」
考える事に飽きた綾希は質問を変えた。とりあえず聞いてみたい事はたくさんあるのだ。
「いいえ、違います。」
綾希はふうんと言ってベッドに腰掛けた。もし、「はい、そうです」なんて答えたら平手打ちの一つでもしてやろうと思っていただけに拍子抜けしてしまった。同時に肩の力も抜けていった。
「じゃあさ、誰かから聞いたりするわけ?」
綾希は漫画の設定のような“天界の長”とか“全知全能の神”なんて答えを想像していた。死後の世界は信じていない方だったのだが。
「誰かから聞いた訳ではありませんよ。そんな存在、聞いた事もありませんし。」
予想外の答えだった。
「じゃ、じゃあ同業者…ほかにも死に神はいるの?」
「いるにはいますが…。話すことも特にありませんし、こんな例外も聞いたことはないです。」
おかしい。どうして死に神本人にもわからないようなことが起きているのだろうか。
「−ねえ。」
綾希は少し低めの声で呼び掛ける。
「はい?」
死に神が答える。
「じゃあどうやって知るの?人が死ぬのを。」
「そのときになればわかるんです。この紙はいつの間にかポケットに入ってます。」
死に神の視線が窓に向いた。外はまだ暗い。
「何かをして知るんじゃないんです。いきなりわかるんです。私にも理由は説明できないし、わかりません。」
死に神はふぅとため息をついた。一気に話して疲れたのだろうか。
「あんたは死ぬの、死なないの?」
「わかりません。」
「どうやって死に神になったの?」
「わかりません。」
「…………………」
立て続けに質問をした結果、得られた情報。それは「この死に神はなにも知らない」ということだけだった。綾希はふつふつと沸いて来る苛立ちをまぎらわそうと深く息を吐いた。