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白い月  作者: 佐久間 迅
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epilogue〜白い月〜

朝が来て夜が来る。私は生きている。それが当たり前のはずだった。あの日、あの時まではー……。

「ーキ……」

誰かが名前を呼んでいる。

「アヤ、キ……。」

だんだんとその声がはっきりと聞こえるようになってくる。

「綾希、いい加減に起きなさい!!」

突然、ドアが開く音がしてしかめっつらをした母が部屋の中へ入って来た。その瞬間、綾希の目が開く。目に飛び込んできたのは母の顔だった。綾希は驚いて起き上がる。

「綾希、休日だから寝ていたいのはわかるけど、いい加減起きなさい。」

母は呆れた顔で部屋の時計を指差す。時計の針は十時を示していた。綾希は回りを見渡す。いつも通りの自分の部屋だ。

「……夢だったのかな?」

綾希はぽつりと呟く。

「それにしても、綾希。暑くて窓を開けるのはいいとしても、カーテンぐらいしめなさいよ。」

母は女の子なんだから、とため息をつく。今気付いたが、部屋の窓とカーテンが完全に開いていた。夜中に髪の長い少女が窓際に立っている、そんな情景がフラッシュバックしてきた。

「とにかく、もう起きなさいよ。お母さんはこれから出かけるから、あとはよろしくね。」

母はそう言って部屋からでていった。少しして一階からドアを開ける音がした。綾希は窓から母が出掛けていくのを見送るとゆっくりとベッドを出た。そのときにあるものが目に入った。それは木から落ちた桜を受け止めたときにできたかすり傷だ。綾希は手でそっとその傷をなぞる。傷のほとんどは瘡蓋になってきている。

「やっぱり、夢じゃないんだ……。」

綾希は部屋の真ん中に立ったまま、今までのことを思い出していた。

「運試し……。」

死神の言葉を一つ一つ思い出す。運試しは成功したのだろうか。綾希は自分の胸に手を当てる。綾希の心臓はゆっくりと規則的に、確かに動いていた。自分は、生きている。きっと運試しは成功したのだ。ふいに綾希は泣きそうになる。そのとき、インターホンが鳴った。しかし誰も出る様子がない。そういえば母が出かけるときによろしくと言っていた。それはほかに誰もいなかったからだったのか。そこでもう一度インターホンが鳴る。現実に引き戻された綾希は焦って着替え、階段を下りる。そして髪を手ぐしで整えながらドアを開ける。

「こんにちは。」

客は綾希を見てペこりと頭を下げた。綾希はその客を見て開けたドアを閉めたくなった。黒く長い髪に、ぱっちりとした目。間違いなくその外見は死神のそれだった。綾希はその客を上から下までじっと見る。それを変に思ったのか客がえっと、と小さく呟く。そこで綾希は我に帰り、すみませんと視線を足元に移す。

「あの、私二日前に隣に越して来たんです。それで、荷物の整理も一段落したので挨拶に来ました。日野桜といいます。よろしくお願いします。」

その言葉に更に綾希は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

「さ、桜……?」

驚きで口を開けたまま情けない表情の綾希に桜はニコリと笑いかける。その笑顔は死神が最後に見せた笑顔と似ていた。しばらく桜は綾希をにこにこして見ていたが急にあ、と声を漏らす。

「……お名前、聞いても?」

「あ、北上綾希です。」

そう答えると桜は北上綾希さん、と何度か繰り返す。どうしたのだろうと怪訝な顔をした綾希に桜は失礼しました、と頭を下げた。二人の立場が逆転した。

「私が小さい頃に会った人にそっくりだったんです。でもその人は今頃かなりの大人でしょうし、そんなはずありませんよね。」

綾希はそうですか、と相槌を打ちながら葬儀場で初めて少女の桜と会ったときのことを思い出す。

「その人の名前は……?」

「北沢あやさんです。」

それを聞いて綾希は小さく息をついた。死神の推測は合っていたのだ。まさかこんな形で桜と再び会うとは予想外だった。いろいろな運命が絡まりあい連鎖すると言った意味が今なら分かる。

「あ、それではこのあたりで失礼します。」

桜はもう一度頭を下げてくるりと向きを変える。

「ーあ、」

桜はもう一度こちらを振り返って空を指差す。綾希はその方向を見る。

「ほら、あそこ。白い月がうっすらと見えるでしょう?私、あの月がすごく好きなんです。」

桜の言った通り空には太陽と、ぼんやりした月が浮かんでいる。綾希はそれを見てなんだか懐かしくなる。

「……知ってる。」

「え、何か言いましたか?」

よく聞き取ることができなかった桜は聞き返す。聞き返された綾希は笑顔で口を開く。

「なんか、神秘的でいいと思う。」

それを聞いた桜はそうですよね、と頷く。それでは、と桜は歩きだす。綾希はあることを思い出して桜を呼び止めた。桜は振り返る。桜が振り返った後、綾希は息を吸う。そして口を開いた。

「絆……。」

「え?」

「二人の絆、変わったね!」

少し遠めの距離から声を大きくして言う。

「えっとよく意味が……。」

戸惑う桜を見て綾希は悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべる。

「死神から聞いた話。」

それを聞いて桜はますます意味がわからないという顔をする。綾希は気にしないで下さいと言って手を振る。桜は不思議そうな顔をしながらも帰って行った。それを見届けた綾希も家に入ろうとする。その前にもう一度、空を見上げる。明るく澄み切った青空の中に一つ、白い月が控えめに浮かんでいた。


8月から連載してきました「白い月」完結です。この話は中学生のときに考えたものでそれを完結させられて非常に感慨深いです。今まで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。今はまた、連載したいなーと構想を練っている最中です。また連載したら見ていただけたら嬉しいです。自分の中で立てた「年内に完結」の目標も達成できて一安心。それではここらで失礼します。


佐久間

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