停止、再稼動
気が付いたら一面真っ白な世界に立っていた。広い、何も無い世界だ。まだ記憶に新しい、この世界は恐らく死後の世界だろう。
「あの死神、本当に適当だな……。前に死後の世界は何もないんだねって言ったら否定してきた癖に。」
辺りを見渡しながら悪態をつく。一度ここへ来たときとは違い、綾希は落ち着いていた。不本意ではあるが一度足掻いた分、踏ん切りがついたのかもしれない。とはいえ不安が全く無い訳ではなかった。
「いつまでこのままなのかなぁ……。」
綾希はその場に座り込む。ひたすらに真っ白な世界で永遠にこのままなのだろうかと考えるとそれは正直怖い。死んだとしたら物を食べたり水を飲まなくても問題はなさそうだが、ずっとこの空間で一人というのは酷な話しだ。絵本や宗教の話によく出てくる天国やら地獄やらは存在しないのだろうか。はたまた生まれ変わるということはないのか。もともと綾希は死後の世界など信じてはいなかった。人は死ねば消えると思っていた。それだけに綾希にとってこの世界は奇妙なものだった。
「あーもう、訳がわからない!!」
綾希は投げやりになって大の字に寝転がった。そのとき投げ出した足に何かが当たった。何もないと思っていた綾希は驚いて起き上がり、当たった物を手に取る。
「これ……!!」
それはあの懐中時計だった。綾希は恐る恐るその蓋に触れる。今度は何も起こらなかった。そしてその蓋を開ける。蓋の中文字盤のない、つまり死神の見せた方の時計だった。
「ってことはあのときの時計も死神の物なのかな?どっちも死神だけど。それよりどうしてこれが……?」
綾希は時計を眺める。これには何か意味があるのだろうか。いっそのこと針を動かしてみたら何か変わるだろうか。綾希は時計の針にそっと触れてみた。その瞬間、急に針が正しい向きに回りだした。触れたといっても回す程の力は込めていない。綾希は焦りながらもただその様子を見つめるしかなかった。時計は何周か回転を繰り返すと、ピタリと止まった。
「な、なに……?」
動いたかと思うと今度は止まった、訳のわからない時計を見て綾希は死神のことを連想した。そんなことを考えていると、綾希は突然激しい睡魔に襲われた。経験は無いが、怪しい薬を嗅がされたりするのはこんな感じなのかもしれない。正体不明の眠気に抗うことができず、綾希は再び意識を手放した。