矛盾
「死んでいないからです。」
先ほどの問いに対し死に神は真顔でそう答えた。そんなわけない、と綾希が言い返す前にまた死に神は続けた。
「私も死んだと思いました。だから、さようならと言った。そのあとはもう帰ろうと思っていたんですよ。でも違った。死んでいなかった。戻ってきた、と言った方が正確かもしれませんね。」
意味がわからない。「死ぬ」と運命を告げられ実際苦しみも味わった。だが死んでいなかったと死に神は言う。死に神は机の向かいの椅子に座って話し始めた。
「見て下さい。」
死に神は折りたたまれている紙を綾希に差し出した。その紙はさっき消えたはずの紙だった。綾希はそっと広げて中を見る。
『北上・綾希 十七歳 七月十二日 死亡 済』
死亡の後に「済」とハンコが押されている。死亡済みか確認済み、というところだろう。
「この紙を見る限り私は死んでるんじゃないの?ハンコ押してあるし。」
綾希はハンコの部分を指差した。
「そこなんです。綾希さんの言う通り。私にもわからないんです。なぜあなたが今ここに存在しているのか…」
死に神は本当にわからないようだった。相変わらず無表情だったが。
一体何が起こっているのか。二人は初めて同じ感情を共有した。