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白い月  作者: 佐久間 迅
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死神と少女

「この川で死にました。」

死神は間違いなくそう言った。綾希は最初、言っている意味が何一つわからなかった。返事をするのにも時間を要した。

「名前が、日野桜?」

やっと出した声は完全に震えてしまっている。

「何言ってるのか全くわからないよ。からかってるだけだだよね?どっかで私のこと見てたんでしょう。だから桜ちゃんの名前を知ってたんだ。」

そう言うと死神は予想外だというふうに驚いた顔をした。

「いいえ。先ほど言った通り、私は綾希さんの家で待っていました。」

綾希は死神にもわかるように大きくため息をついた。

「あんたが桜ちゃん?桜ちゃんは小さい子供だよ。そんなわけないじゃん。」

死神が桜だというのは綾希の中で出た結論と一致するものだった。しかしやはり面と向かって言われるとどうも信じきることができない。

「信じて頂けないんですね。」

「そりゃあそうだよ。」

「では今私が嘘をついたとして、得をするのは一体誰ですか?」

綾希は返答に困る。確かにそうだ。それに死神の言ったことが嘘ならば、この場に桜がいないことの説明がつかない。

「私は死神ですがどうして死神になったのかはわかりません。以前に初めて目が覚めたのは月の綺麗な晩だと言いましたよね。私にはそのときより前の記憶はありませんでした。」

綾希は死神の言葉が過去形であることが気になった。

「しかし先ほど、突然甦ってきたんです。小さい頃、父に遊んで貰ったこと、懐中時計をくれたこと、そしてその大好きな父が死んでしまったこと。」

綾希はただ死神の話しを聞いている。あまり表情の変化のない死神の表情がこのときはすこし泣きそうになっているような気がした。死神はそこからぽつりと付け足した。

「そして気が付いたらここにいました。」

綾希は俯いた。返す言葉が見つからなかったからだ。

「綾希さんはもしかしてこの時代で日野桜に会ったんですか……?」

「うん。さっきまで一緒にいた。」

「そうですか……。」

死神は橋の近くから川を覗き込む。その行動が先ほどまでずっと見ていた幼い桜の姿と重なる。

「父の葬儀の日、私は形見である懐中時計を探しに家をとびだしました。普通は近くの道を探したりするものなのでしょうが私は山の方へ向かいました。勘とでも言うのでしょうか、そこにある気がしたんです。その予想通り時計は山の何処かの木の上にありました。おそらくカラスが持って行ったんでしょう。時計を見つけた私は早足で家に向かいました。自分からとびだしたとは言え、暗い夜道は小さい私にとっては怖いものでしたから。そして、この橋を渡っている途中で橋が崩れ私は川に落ち、死んだのです。」

綾希は珍しくよく話す死神に驚きながらこれまで一緒に過ごした桜の行動を思い返していた。しかしそこで、一つ疑問が浮かぶ。「橋を渡っている途中で橋が崩れた」という部分に関してだ。綾希は「ねえ、」と死神に声をかける。

「橋は私達が来たときにはもうこんな状態だったよ。それに桜ちゃんは橋から落ちたりなんてしてない。」

死神はそれを聞くと少し考え込んだ。そして結論が出たのか、綾希の顔を見た。と言ってもその表情はあまり自信のなさそうなものだった。

「もしかしたら……。」

死神は一度言いかけて口をつぐむ。発言に躊躇しているのだろうか。

「早く言ってよ。」

死神と初めて会ってまだ一日もたっていないが死神の態度に苛立つということがなんだか久しぶりのことのように感じた。死神はすみません、と謝り話を再開した。

「綾希さん、あなたが変えたのは私の運命なのかもしれません。」

風が強く吹いて周りの木々を大きく揺らした。


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