表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白い月  作者: 佐久間 迅
35/42

瞬き

「桜ちゃん!!」

細い木は重力に従って曲がり次の瞬間にあっさりと折れた。重力は桜にも同様に働き地面に引っ張ろうとする。このままでは怪我をする。綾希は無我夢中で桜が落ちてくる場所まで走った。先ほどまで気になって仕方がなかった濡れた服も今では重みすら感じられない。とにかく走った。苦しいかそうでないかもよくわからない。あと数十センチのところで綾希は桜の身体まで必死に手を伸ばした。滑り込み、という表現が一番近いような状況だった。何かがぶつかるような音がして、あたりに砂埃がたった。一瞬辺りは静まり返る。少しして綾希がのそりと起き上がる。

「いっ…た……。」

綾希は顔をしかめて手に着いた泥を払う。少し擦り切れて血も滲んでいる。服は更に汚れた。

「ちょっと、大丈夫なの…?」

綾希は腕の中で包む様に抱き抱えていたものを覗き込む。綾希が必死になったかいがあって間一髪のところで地面との直接衝突は避けられたが、桜は黙っている。もしかしてどこか打ったのだろうか、と綾希は顔を青くする。

「桜ちゃん?」

もう一度話し掛けてみる。すると黙ったままではあるが、綾希の腕から抜け出し、綾希の前に立った。そして桜の顔が少しずつ楽しそうなものに変わって行く。頭を打ったかと危惧する綾希を余所に桜は口を開いた。

「お姉ちゃん、すっごいねーっ!」

「……え?」

綾希は口をぽかんと開けた。

「スーパーヒーローみたいだった!」

要するに先ほどの滑り込みが悪を倒すヒーローのアクションに見えたということなのだろう。びゅーん、などとスーパーマンが何かの真似をする桜を見て綾希はいっそのこと放っておけばよかったと自らの行動を悔やんだ。擦り傷程度だが自分は怪我をしてまで助けたのに当の本人はアニメでも見ているかのように能天気に喜んでいるのだ。腹がたたないわけがない。もう一人で帰ってしまおうかと思っているときに桜は何か思い出したように綾希の手を握って来た。

「……何?」

綾希はぶっきらぼうに言う。桜はそれににこりと笑った。

「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう。」

子供というのは狡い生き物だ。そんな風に言われたらこれ以上責められない。

「……もう帰るよ。」

綾希はため息を吐いてもときた道を引き返す。桜はうんっと嬉しそうに小走りで着いてきた。とりあえずこれで一件落着だ。綾希はこれは運命を変えたと思っていいんだろうか、と考えていた。桜が落ちそうなところを助けた。自分が助けなければ桜は死んでいた、とまではいくかわからいが確実に怪我はしていただろう。だが自分がもとの時代に戻る気配は全くない。そういえば、元に戻る方法を聞いてすらいない。これではいけないのではないか。

「あの適当死神……。」

綾希は桜に聞こえないように呟く。夜が明けるまで、あと数時間。


更新しようと思っていたのにいつのまにか二週間以上も間を開けてしまってました(汗)

この「白い月」、もうちょっと続くのですがだんだんとクライマックスに近付いていっている状態です。


どうかよろしければ、もう少しの間お付き合いお願いしますm(__)m


佐久間

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ