唖然
「一緒に時計、探そうか。」
そう綾希が言うと、桜は驚いたように顔を上げた。不本意ではある。だがそうでもしない限り、桜はおとなしく帰ってはくれないだろう。それにあんな悲しげな表情を見せられたらさすがの綾希でも無下にはできない。こうするしかなさそうだ。
「……本当?」
桜が呟いたが綾希は聞き取ることができなかった。
「え、何?」
「本当に一緒に探してくれる?」
桜はまっすぐに綾希を見つめてきた。
「うん。」
綾希は頷きながらそう言った。すると桜が小指を差し出してきた。綾希は首を傾げてその小指を見てみた。
「一緒に探すって、お約束。」
あぁなるほど、と綾希は納得し桜と同じように小指を差し出す。反射的に小さい頃の自分を思い出した。こんなかわいらしいことをする子供ではなかったが。
「指切りげんまん、」
桜が元気良く歌いだす。綾希はというと、見つけ出さないと針をのまされるなぁなんてぼんやりと考えていた。
「……指切った!」
相変わらず元気な声とともに勢いよく指が離れた。桜はそのあとすぐに立ち上がり、上機嫌で周りの草むらをがさがさと探り出した。綾希もそれに倣った。しかし不快感と戦いながら草を掻き分けているうちにある疑問が沸いて来た。
「桜ちゃん、時計こんなところにあるの?」
冷静に考えてみると小さな子がこんな場所で落とし物をするとは考えにくい。というよりも、こんな所に来ることすら滅多に無いだろう。だとしたら、これは時間の無駄だ。しかし桜は手を止めずに考える素振りをしだす。そしてこちらには目もくれないまま一言だけ言葉を発した。
「一回、来たことある」
桜は草を分ける手を完全に止めた。会話が成り立っていない上にここは一度しか来たことのない場所だった。きっとここに時計は無い。疑いが確信に変わる瞬間だった。
「ここに来たのはいつぐらい?」
とりあえず、綾希は聞いてみた。
「……さっき。」
「え?」
「さっき、ここ通った。」
背後からはまだがさがさと音が聞こえてくる。綾希は思考を止めてしまいたい気持ちでいっぱいになった。
「お姉ちゃん、止まってないで探してよ。」
桜の不満げな声が綾希の脳内にこだまするように響いていた。




