突然の帰還
無の世界。ひたすら真っ白な世界。何も無い、聞こえない。自分の存在すら思い出せない。そんな世界に綾希は一人立っていた。その世界に突然音が生まれた。しかしよく聞こえない。
「アヤ、キ−…」
<アヤキ>とは誰かの名前だろうか。
「アヤキ、さん」
いきなり何かに肩を掴まれた。痛みは、ない。そしてぼんやりとしか聞こえなかった声がだんだんとはっきりしたものに変わっていく。
「綾希さん。」
今度ははっきりと聞き取ることができた。それと同時に周りの景色が一変した。ベッドに開いていた窓、そして死に神と名乗る少女−…。一度にたくさんのことを思い出し綾希は頭が痛くなった。
「綾希さん。」
死に神はもう一度綾希の名を呼ぶ。あの意識を失う前の苦しみを思い出し怒鳴りつけてやりたくなった。しかし綾希の口から出て来た言葉は全く別のことだった。
「あの何もない世界…あれが死んだ後の世界なんだね。」
死に神は少し考えるそぶりを見せたあと、
「そんなことありませんよ?」
と答えた。死に神が嘘をついているようには見えなかったが綾希は信じられなかった。
−だってあの世界は何も無かった。何も感じず何も聞こえず…−
そこで綾希は一番重要なことに気付いた。
「どうして私は今ここにいるの?死ぬはずじゃあなかったの?」