親子会議
「あや!」
梓が息を切らして綾希の元へ駆け寄ってくる。寝るときに着ていたジャージのままだ。
「三浦さん。」
直紀が顔を赤くした。対称的に綾希の顔は青くなっていった。まさか家を出たことが気付かれるとは。綾希は日野の家まで引き返したことを深く後悔した。二人のいるところまでたどり着いた梓は綾希の肩をガシッと掴んだ。
「目が覚めてトイレ行こうと思ったらいなくてビックリした。あや、時々様子がおかしかったから嫌な予感がして……。」
少しずつ息を整えながら話す梓に綾希は何も言えなかった。罪悪感さえ感じた。
「どうして急にいなくなったの?」
綾希はえっと、と言ったところで言葉につまった。
「桜ちゃんが心配だったみたいだよ。」
言葉を発したのは直紀だった。
「日野さんの……?」
「う、うん。今ちょうどこうして話してたんだ。」
困る綾希を見て直紀は助け舟を出してくれた。
「そっか。そういえばお通夜のとき一緒にいたもんね。だけど起こしてくれたら一緒に行ったのに。」
直紀のフォローのおかげでなんとかこの場はごまかせたようだ。綾希は気付かれないようにホッと息を吐いた。
「それで、桜ちゃんは?もう寝ちゃってるかな。」
「それが、いなくなっちゃったんだ。」
梓は「え!?」驚いた様子を見せた。
「だから今、探してるんだけど、」
「なら、早く探さなきゃ!」
梓は直紀の言葉を遮って言った。直紀は少し気圧されてしまったようだ。
「とりあえず手分けして探そう。私とあやはそっちの方に行くから北上君は…」
綾希は梓のテキパキしたところやリーダーシップに感心していたが、すぐに感心している場合ではなくなった。この状況で梓と二人で組むのはできれば避けたい。残り時間も少ない中、これ以上の時間のロスは文字通り命取りだ。
「私は一人で行くよ。だから梓は北上…君と二人で行って。」
父親を君付けで呼ぶのはなんだか変な感じがした。よく考えてみれば母親にいたっては呼び捨てになってしまっているが。
「なんで。」
梓と直紀の声が重なった。二人は顔を見合わせる。直紀の方は顔を再び赤くしてその顔を反らした。梓は気にしていない様子で続ける。
「あやはここら辺のこと知らないと思うし危険だよ。」
直紀もそうだよ、と何度も頷く。
「だからこそだよ。」
綾希は話しながら説教をされている気分になっていた。
「この辺りのことを知ってる二人の方が桜ちゃんを見つける可能性が高いじゃん。もし桜ちゃんに何かあったとき二人いた方が絶対いいよ。」
今日一番の言い訳だ、会心の出来だ、と綾希は心の中でガッツポーズをしていた。
「そう言われてみたら、そうかなぁ…」
梓は納得しかけていた。だが直紀はまだ折れない。
「それなら三人で行こうよ。」
直紀は予想外に手強かった。もしかしたら好きな人と二人きりになるのが照れ臭いのかもしれない。しかしここで負けるわけにはいかなかった。
「三人もいらないよ。梓の言った通り、早く探さなきゃ。さぁ行こう。」
綾希は反論される前に強引にことを進めた。直紀は明らかに不服そうだが梓に呼ばれ少し戸惑いながら着いて行った。二人が行くのを見届けてから綾希も反対の方向へ足を進めた。