再会
小走りで日野の家に向かう。別にさきほどの会話で特別な感情を抱いた訳ではない。だがなぜなのか、「今度こそ」という考えが引っ切りなしに浮かんで来る。以前同じようなことが起きたような感覚だった。桜とは初対面のはずだ。様々な想いを抱えつつ綾希は走った。
「確かにねぇ。事故にでも遭ったら…」
途中でさっきの夫婦と同じような黒い服で歩いている女の二人組を見つけた。話題はやはり桜のことだろう。綾希は意を決して話し掛けてみた。
「あの、日野…さんの家ってあっちですか?」
こんな時間に一人というのもあり、二人はかなり怪しむような目で綾希を見てきた。
「今からお通夜に?」
「えっと……桜ちゃんと少し話したことがあって、さっきいなくなったと聞いて心配になったんです。」
心配かどうかは怪しいが特に大きな嘘はついていないだろう。
「ふうん、そうなの。」
二人の内の一人である女が綾希をじろじろと見る。まだ怪しまれているのかもしれない。
「失礼だけど、あなたこの辺りの人?見ない顔だけど。」
「あ、ハイ。」
未だに信用されていないようで綾希はその態度に少し腹が立った。するともう一人の女が口を開く。
「まぁいいじゃないの。人が死んでしまった時に何かする人なんていないわよ。それに桜ちゃんを探すとしたら、人手も必要になるだろうし。」
こちらは話しがわかるようだ。
「そうかしら。」
かたやもう一人はまだ腑に落ちない様子だ。この二人はなぜ一緒にいるのだろうと綾希は真面目に考えた。
「日野さんの家はそっちの方。少し行ったら橋があるからそれ渡ったらすぐよ。」
女は指をさして教えてくれた。綾希は「ありがとうございます」と言って走って行った。背後から
「本当に教えちゃって大丈夫なの?」
などと不満そうな声が聞こえた。いつまで言うつもりだ、と綾希は走りながら小さく舌打ちをした。
親切な女の方の言った通りすぐに日野の家が見えた。まだ明かりは点いていて、周りにちらほら人もいる。綾希はそのうちの一人に話し掛けた。
「あの、この家の桜ちゃんって子…」
「北沢さん?」
聞いている途中で誰かに声をかけられ振り返ると直紀だった。綾希は話し掛けた人にすみません、と言って直紀の元に駆け寄った。
「北沢さん、どうしてここにいるの?」
案内間違ってた?と直紀が申し訳なさそうにする。それを見て綾希は本当にこの人間はお人よしだと思った。
「そうじゃなくて……途中で大変な話を聞いたから。」
「大変な話?」
「日野ん家の子がいなくなったって。」
「……あぁ。」
それか、と直紀が目を伏せた。その様子からするとまだ見つかっていないのだろう。
「もしかして、桜ちゃんを探すために戻ってきてくれたの?」
直紀の顔が少し明るくなる。綾希は咄嗟に目を逸らした。
「……まぁ、一回喋ったことあるし気になったから。」
「助かるよ。こんな時間だから人手が足りなくてさ。」
「で、その子が行きそうな所は?」
「そういう場所は桜ちゃんのことをよく知ってる沢野さんが探してる。残りの人達は手分けしていろんなとこ探してるんだよ。」
どうやら当ては全く無いようだ。どうしたものか、と綾希が頭を悩ませていた時、大きな声が響いた。
「あや!!」
顔を赤くして走って来るその人物は間違いなく、梓だった。