ハズレクジ
綾希は今必死に考えていた。もちろんどのように梓のもとを離れるかについてである。このままずるずるとペースに引き込まれてはいけない。が、なかなかそうはいかないのだ。
「あの、私そろそろ…」
「靴はこれ使って。私のお下がりだけど。」
うまく切り出せない。とりあえず靴は有り難く履かせてもらった。靴下に続き靴もなんだかパッとしないデザインだった。これでもこの時代では普通だったのかもしれない。
「さ、行こう。こっから歩いて十五分位だよ。」
「…………」
まぁ、いいか。ここで別れたところでどうしていいかもわからない。着いて行って少しこのあたりの様子を見てみよう。少し言い訳じみたことを考えながら家を出た。
「あっちがよく行く駄菓子屋であれは銭湯。それであれは、ここらじゃ評判の…」
梓はいろいろと指差しうれしそうに話してきた。そういえば母親になってからの彼女も故郷の話しをよくしていた。きっとここのことがすごく好きなのだろう。そんな他愛ない話を聞いている間に店に着いた。
「ここらで一番のスーパーだよ。」
梓はそう言ったが内装も設備も今とは全然違い驚いた。一昔前の映画のセットのようだ。ついでに物価の違いにも軽くショックを受けた。
「そんな珍しい?」
買い物カゴを手に提げて梓が聞いてきた。カゴには既に醤油が入っていた。
「アイス選んで帰ろ。お母さん待ってるし。」
梓が手を引いてきた。なんだか心が暖かいような気がした。
二人は帰り道を買ったアイスを食べながら歩いている。
「あ、ハズレ。」
梓がアイスの棒を少し残念そうに見せてきた。
「あやはー?」
「…ハズレ。」
今食べ終わりハズレと書かれた棒を口から出して見せる。
「あーあ、収穫なしか」
梓は棒をくわえたまま歩いている。
「どれくらいの確率なの?当たりが出るのって」
「わかんない。なかなか出なかったり簡単に出るときもあるし。」
買ってみないとわからないよー、と梓は笑っていた。綾希は瞬間的に死に神の言葉を思い出した。
「そういえば綾はなんでこんな田舎の村まで家出して来たの?あちこち珍しそうに見てたし、都会の人なんじゃないの?」
ま、ここも良いとこだけどー、と梓が数歩前を歩く。綾希はというと、うまい嘘が浮かばず困っている。
「ねえ、なんで?」
「えっと…」
好奇心とは時に厄介だと綾希は思った。
−いっそ本当のことを言ってしまおうか−
そんな考えがよぎった。
「……梓。」
初めて自分から名前を呼んだ気がする。
「ん?」
「今から言うこと、信じてくれる?」
「ん。」
梓の顔が夕日に照らされている。きっと梓なら信じてくれるだろう。今、目の前に居るのは母親じゃない。梓という一人の友達だ。彼女ならもしかしたら協力もしてくれるかもしれない。綾希は本当の事を言おうと決心した。
「あのね、梓。実は…」
そう言いかけたとき梓の足が止まった。
「どうしたんだろう…」
梓が見ている方を綾希も見てみると一つの家にたくさんの人が集まっていた。二人はその家に近寄って行った。