休憩
袋の煎餅がなくなったところで綾希は茶の入った湯呑みを手に取った。その時、
「ちょっと梓ー?」
部屋のドアがガチャリと開いた。突然のことで綾希は驚き湯呑みを落としかけた。
「お母さん?」
その言葉を聞いてドアの方を見る。
−おばあちゃん若い!−
ついまじまじと見てしまう。というかけっこう綺麗だ。会うとよく聞かされる『私が若い頃はかなり美人だったのよ』という言葉はあながち嘘ではなかったようだ。
「あらお友達?」
祥子が綾希に気付いた。が、次の瞬間かなり驚いていた。
「そっくりねぇ…」
そうだ、この反応が普通なのだ。
「でしょー?さっき仲良くなったの。」
こっちがおかしいのだ。そしていつ仲良くなったのだろう。
「まあ、そんなことより」
母親も同類のようだ。
「ちょっとお使い行ってきてくれない?醤油きらしたのよー。」
祥子の手には既に財布が握られている。
「えー今、のんびりしてるのに。」
「今から夕飯の支度するのよ。ちょっと多めにお金入れとくから、アイスでも買ってきたら?」
「やったぁ。ってことで、行こうあや。あ、靴と靴下貸さないとね。」
そう言って梓は服箪笥を漁り出した。そこで綾希は気付いた。のんきに人の家で煎餅など食べている場合ではなかった。すっかり梓のペースに乗せられていた。このままだとのんびりと何もせずに期限を迎えてしまう。それだけは絶対にあってはならない。どうにかしてここを出ねばと考えていた綾希のことなど梓は全く気付いていなかった。
「はい靴下。ホラ、暗くなる前に行こ。」
梓が靴下を一足投げてきた。受け取った靴下は時代遅れのダサい靴下だった。