少女と靴
綾希は同じ顔の少女を見たまま止まってしまった。少女はというと少し驚いているように見えるがそれよりも綾希のことを心配しているようだった。
「あの−、やっぱり具合良くないんじゃないですか?」
驚きで黙ってしまっていた綾希は具合が悪いと勘違いしたようだ。少女は心配そうに綾希の顔を覗き込んでいる。
「いや、本当に大丈夫なんで…」
「じゃあどうしてこんなところで座り込んでたの?」
「それは…」
今までのいきさつを話すわけにもいかず返事に困ってしまう。この少女は予想以上にしつこい。しかも途中から口調が変わってきた。
「あーわかったぁ。」
少女が得意げな顔をして、綾希を指差してきた。
「家出してきたんでしょう?ここらじゃ見ない顔だし。うん、わかるよ。お互いいろいろあるよねぇー。」
急にペラペラと喋りだした少女に綾希は戸惑った。そして、『わかる』という言葉に少し腹がたった。こっちは死ぬかもしれないんだよ。綾希は心の中で反論していた。
「てか、何で家出?親とケンカ?」
だから違うって。そう言いたい気持ちを堪えて、「うん、まあ…」と適当に相槌をうった。
「へえー、それは厄介だねぇ…。」
少女が綾希の隣に座ってきた。
「ね、うち来ない?」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「やっぱり心配だし、少し家で休んでいきなよ。お茶くらい出すし。」
心配というが家出の詳しい話を聞こうと目が輝いている。
「ゴメンなさい、私行くところが、」
これ以上話していてもろくなことがないと思い綾希はその場をさろうとした。が、立ち上がったところであることを思い出した。
「忘れてた…」
綾希が頭を抱えているのを不思議そうに見ていた少女も気が付いたようだ。
「靴も履かずに家を出て来たの?」
綾希は恥ずかしくなり俯いた。だから家出じゃない、そう言えたらどんなに楽だろうか。少女はそんな綾希の手を掴んでニコリと笑った。
「ならなおさら家においでよ。靴貸してあげる。 ガラスでも踏んだら危険だよ?」
「…………わかった。」
綾希は仕方なく了承した。確かに靴は必要だ。もしかしたら家に行けば顔がそっくりな理由がわかるかもしれない。先祖ということも有り得る。
「じゃ、行こっか。」
「うん。」
綾希はすぐ傍に停めておいた少女の自転車を借りて少女の後を着いていった。