死に神の話
「さっき言った運試しについてですが…」
死に神は服のポケットから懐中時計を取り出した。素材はおそらく銀で月と鎖の細工がされてある。
「どうぞ。」
死に神はそれを綾希に差し出した。綾希はとりあえず受け取り時計をあちこち眺めたり触ったりしてみた。そういえば、今何時なのだろうと蓋をあけ時間を見ようとした。
「数字が…ない。」
綾希は一度自分の目をこすってみた。だが依然として文字盤に数字ははないままだ。しかし長針と短針だけは存在しお互いどこかを指し示していた。時計を食い入るように見つめる綾希に死に神はクスリと笑い、
「死に神に与えられた一つの特権です。」
とその時計を指差して言った。
「とっ、けん?」
「運試しの説明から始めましょうか。まず運命って信じます?」
死に神はいきなり心理テストのような質問をしてきた。答えは決まっている。
「信じてない。」
綾希はそういった類の話は全く興味のない人間だった。小さい頃は可愛いげのない子供だと周りからはよく言われていた。
「聞くだけ無駄でしたね。まあ、いいでしょう。ですが運命というものは存在します。全てのことは運命に沿って起きているのです。」
「…はぁ、なるほど。」
半分くらいは聞き流していた。それに今さら運命がどうだとかを聞いて何になるのだろうか。ひょっとしてこの死に神はどうせ死ぬ運命だとか言ってくる気ではないだろうか。おちょくりも大概にしてほしいものだ。
「そこで一つ問題です。晴れるはずだった日に人間が人工的に雨を降らせたとしたらどうなるか、わかりますか?」
心理テストの次はクイズか。目の前の死に神が何を考えているのか綾希には全く理解ができない。
「どうって…晴れて終わりでしょう?ほかに一体何が起きるってのさ。」
「答えは<運命がずれてしまう>です。」
綾希は聞き返すのも面倒臭くなってきた。お構い無しに死に神は続きを話す。
「仮に今日晴れるはずだったとしましょう。そこで人が機会でも使って無理矢理雨を降らせたとしますね。すると晴れるという運命は次の日に延期されます。そして次の日の運命はそのまた次の日にさらに…という風に運命が一つずれるごとにいろんなことが大きく変わることになります。もちろん天気以外にも同じことが言えます。」
綾希はあまり理解できず何も言うことができなかった。
「ここまで、わかりましたか?」
「あっ…うん。まぁ大体は。」
騙しているようで罪悪感がわずかに襲った。ところでこの話は一体あとどれくらい続くのだろうか。綾希はあの時死に神のことなど無視して病院に向かえばよかったと内心ひどく後悔していた。