予定変更
目の前はもう明るい。リミットは丁度明日のこの時間。
−急がなきゃ…−
綾希は小走りで駅へ向かう。確か二駅程行った所に総合病院があったはずだ。
「綾希さんっ」
初めて聞く死に神の焦ったような声に思わず足を止める。振り向くと死に神が後ろに立っていた。綾希は少し息が上がっていたのに死に神は涼しそうな顔をしていた。
「なに、さ…?」
まだ息が整わない。死に神の視線はどこか宙を舞っている。
「…………し」
死に神がボソリと何かを呟いたが綾希は聞き取ることができなかった。
「え、今なんて?」
「運試し…」
「運試し?」
何の話だろうと綾希が考えていると死に神は綾希に手を差し出してきた。
「………?」
綾希はどうしていいかわからずに差し出された手をじっと見た。
「…手。」
「え?」
「私の手、握って下さい。」
「…………え?」
いきなりのことで頭がついていけなかった。ついでにその冷たい手を握るのも死を連想してしまうから綾希は嫌だった。綾希が嫌そうな顔をして手を握るのを渋っているのを見た死に神はため息をついた。
「…早く。時間は迫ってきてますよ?」
綾希は一瞬、たじろいだ。もじもじしている場合ではなさそうだ。仕方なく死に神の手を握る。
「で!?これでどうなんの?どーすんの?」
「瞬間移動します。」
「は!?」
「嘘じゃないですよ。」
「…はい。」
何言ってんだ、と言おうとしたところをピシャリと遮られ思わず敬語になった。そして死に神の手を握ってから少し経っていた。
「早くしようよ。」
「あ、はい。では少しばかり目をつぶっていて下さい。」
そう言われて綾希はギュッと目をつむった。瞬間移動とは一体どんな感覚なのか。ふんわりと浮く感覚なのだろうか、それとも…そんなことを考えながら瞬間移動を待った。
「はい、目を開けて下さい。」
「え…?」
まだ、何かあるのかと迷惑そうに目を開けると部屋の中だった。綾希は本当に瞬間なんだなあ…と感心しながら部屋を見回す。
「さて。」
死に神はそう言ってさきほどと同じくイスに腰掛けた。気に入っているのだろうか。
「さっき言った運試しについてですが…」
綾希は姿勢を正した死に神に少し緊張を覚えながらその話の続きを待った。