わかものと大根
「しあわせ……。なはずなんだけどなぁ……」
「なに?またボヤいてんの?」
「屋根があって、明日の食事に困ることもなく、暖かいところで眠れる。仕事もあるし友達もいる。不幸じゃないから幸せ……。うん。しあわせ」
「なんかそれ、言い聞かせてるみたいだよね」
「わかんないんだよ、しあわせ」
そう言いながら、田中景は缶コーヒーをひと口すする。
「私は、こうして景と散歩できて楽しいよ。夜好きだし」
天野は腕を擦りながら景の隣を歩いている。
景は何も言わずにコーヒーを啜っている。
彼らは海へ向かって歩いていた。
理由なんてない。若者は夜明けが近づくと海へ歩きだすものらしい。
コンビニでおでんを買って、堤防に座る。
夜明け前と呼ぶにはまだ暗すぎる空から、星が二人を眺めている。
景は空を見上げた。
天野はチューハイ片手におでんをつついている。
ごくっ。ぱくっ。
「ぷはぁ!!この大根がうまいんだよね。あ゛ぁ゛〜しあわせ〜」
天野の顔はすっかり赤くなっている。
景は夜と海の境界線を眺めていた。
「俺も買えばよかったな酒。そんな美味そうにされると悔やまれるぜ」
「禁酒中なんでしょ〜?」
「……金欠なだけ」
「ふーん」
天野はチューハイを彼の口元に差し出した。
「ん。のむ?」
一瞬のためらい。のち。
「……ありがと」
一口。そして大根。
「うわ。幸せだわ」
「でしょ」
水平線がほのかにひかりを放っていた。
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