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わかものと大根

作者: 不常
掲載日:2026/10/05

「しあわせ……。なはずなんだけどなぁ……」


「なに?またボヤいてんの?」


「屋根があって、明日の食事に困ることもなく、暖かいところで眠れる。仕事もあるし友達もいる。不幸じゃないから幸せ……。うん。しあわせ」


「なんかそれ、言い聞かせてるみたいだよね」


「わかんないんだよ、しあわせ」


そう言いながら、田中景は缶コーヒーをひと口すする。


「私は、こうして景と散歩できて楽しいよ。夜好きだし」


天野は腕を擦りながら景の隣を歩いている。


景は何も言わずにコーヒーを啜っている。


彼らは海へ向かって歩いていた。


理由なんてない。若者は夜明けが近づくと海へ歩きだすものらしい。


コンビニでおでんを買って、堤防に座る。


夜明け前と呼ぶにはまだ暗すぎる空から、星が二人を眺めている。


景は空を見上げた。


天野はチューハイ片手におでんをつついている。


ごくっ。ぱくっ。


「ぷはぁ!!この大根がうまいんだよね。あ゛ぁ゛〜しあわせ〜」


天野の顔はすっかり赤くなっている。


景は夜と海の境界線を眺めていた。


「俺も買えばよかったな酒。そんな美味そうにされると悔やまれるぜ」


「禁酒中なんでしょ〜?」


「……金欠なだけ」


「ふーん」


天野はチューハイを彼の口元に差し出した。


「ん。のむ?」


一瞬のためらい。のち。


「……ありがと」


一口。そして大根。


「うわ。幸せだわ」


「でしょ」


水平線がほのかにひかりを放っていた。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。


よければコメントやアドバイス、誤字の指摘など、評価や反応をいただけると泣いて喜びます。

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