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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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愛など知らぬはずの騎士様が、婚約破棄したら、その弟が離してくれない。

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/05/13

 愛を知らない騎士様に婚約破棄されて追い出された屋敷に、その弟と愛を知って帰ってきた——。



 愛を知らない騎士様が婚約破棄したいと言ってきました。


 何故、私が、騎士様が愛を知らないと知っているのか。

 自己申告されたからです。


『俺は愛を知らないが、フィア、君を大切にしようと思う』


 婚約の時に、本人がおっしゃいました。


『ガルド様、私も愛を知らないので大丈夫です。妻としての役目は果たしますので、よろしくお願いします』


 ぺこりと頭を下げると、『ああ』と言ったきりでした。


 私は、転生前から愛を知りません。

  

 結婚する前に騎士様の子爵邸で暮らし始める。


 朝は食事を作って騎士様を起こして、食事して、仕事に送り出す。


 騎士様の弟が遅れて食事して出掛けていく。


 昼は掃除したり洗濯したり。


 メイドや使用人もいるけど、平民だった私は家でやっていたのと同じ事をしている方が楽です。


 午後に貴族の妻の心得を教えてくれる家庭教師や親類の叔母様たちが訪ねて来るけど、これは苦痛です……。


 夕方、騎士様の弟が帰ってきて、遅れて騎士様が帰ってきます。


 夕食を食べて別々の部屋で眠ります。


 そんな日常が過ぎて行ったある日……。


「すまないが婚約は破棄させてくれ。俺はルナリアを愛してる」


 騎士様がお腹の大きな女性を連れて帰って来ました。


 愛を知ってしまったみたいです。


「分かりました」


 愛を知らない私は荷物をまとめて出て行きました。



 しばらく歩いて屋敷が小さくなった頃に名前を呼ばれる。


「フィア、待ってください」


 騎士様の弟です。


「シオン様、何か?」


 弟のシオン様は息を切らしている。


「は……早すぎる……でしょう! 急に婚約破棄されてノータイムで出て行くって事がありますか!?」


「愛を知らないので」


 息が整ってきたシオン様は私の正面に立って真っ直ぐに見つめる。


「僕は愛を知ってます。あなたを愛してるから結婚してください」


「……愛を知らない私と気が合うとは思いません」


「僕があなたに教えます! 戦災孤児で天涯孤独のあなたに行く場所もないでしょう? 街に僕が借りてる部屋があるのでそこに行きましょう」


 街の騎士の養成所に通う為に借りていたんでしょうか?


「部屋があるのに何故、屋敷に毎日帰ってきていたんですか?」


「あなたに会うためです」


「愛って無駄なんですね」



 私はシオン様の借りている街の部屋に来た。


「狭い部屋だけど……」


 ベッドが一つとソファがあった。


「僕はソファで寝るから、フィアがベッド使って」


「結婚するのではないんですか? ベッドは一緒ですよね?」


 シオン様が慌ててる。


「け、結婚はするけど、僕はまだ騎士見習いだから! 騎士になってからじゃないと……」


「そうなんですか」


 シオン様が真っ赤になって苦しそうにしている。


「でも、フィア、君が許してくれるならキスだけ今したい」


「いいですよ。はじめてですけど、どうぞ」


「は、はじめて!?」


 私は目をつぶった。


 けどキスされない。


 シオン様が床にうずくまっていた。


「は、はじめてなら、もっとちゃんとした場所じゃないと……!」


「しなくていいんですか?」


「……し、したい、でも! 手だけつないで!


 私はシオン様と手をつないだ。


 シオン様がにこにこして私を見てる。


「手をつなぐのもはじめて?」


「ガルド様と毎日つないでました」


「え……!?」


「朝に食堂から外にお送りする時とか、夜、寝室までの間とか」


「毎日!? 何が愛を知らないだ兄貴のヤツ!」


 シオン様が怒ってます。


「フィア、僕とも毎日手をつなぐよ」


「いいですよ」


 こうしてシオン様との生活が始まった。


 朝起きて食事の用意をしてシオン様を起こして一緒に食べて送り出す。


 騎士様にしていた事と同じ事です。


「フィアに起こしてもらうの幸せ」

「フィアの作った料理、美味しい」

「フィアの待ってる部屋に必ず帰って来るよ」


 違うのはシオン様がうるさい事。


 食事中もずっと私を見つめて、顔についたら取ってくれたりします。


 手もつないで、ずっと離さず撫でられます。


「フィア、部屋を綺麗にしてくれてありがとう」

「何か手伝うことある?」

「一緒にソファで休もう」


 ずっとこの調子で数週間がたちました。



 シオン様がソファに座ってウトウトしています。


 私は横に座っています。


 いつもなら手をつないで一緒に座るけど、シオン様が先に寝てしまったので今日はつなぎません。


 シオン様の手は特になにも掴まずダランとしている。


 私は思わずシオン様の手に自分の手を伸ばした。


 手と手が合わさった瞬間、気付いてしまった。


 この暖かさを私は知っていた——。


 涙が溢れた。


「フィア? どうしたの」


 シオン様が起きて聞いてくる。


「——私、知ってたんです。あれは、愛だった」


 ガルド様を起こして、一緒に食事して、手をつないで、帰りを待って……。


 全部、愛だった。


「私は、ガルド様を愛してた——」


 気付いたら簡単なことだった。



「……フィア……」


 シオン様が悲しそうに私を見てる。


 私は涙を拭いて、シオン様を見てにこりと笑う。


「私、愛を知ってたんです。気づかせてくれたのはシオン様です」


「良かった……」


 シオン様が力なく微笑む。


「——そして、今愛してるのは、シオン様です」


 シオン様を見て伝える。


「——フィア!」


 シオン様が驚いている。


「愛しています」


 そう言って私はシオン様にキスした。


「は、はじめてって!」


「シオン様と出来て嬉しいです」


 シオン様が私を真剣に見ている。


「もっとしていい?」


「はい」


 私とシオン様はたくさんキスして、もっと愛を知りました。




 シオン様が騎士見習いを卒業して騎士になる頃。


 戦争で息子を失った老教官の子爵家に養子にならないかと誘われた。


 シオン様と私と双子の息子は子爵家に住むことになった。


 戦争は終わったばかりで、平和な日々がしばらく続くだろう。


 戦争を終わらせたのは、なんとガルド様だった!


 敵国のスパイだった愛する女性ルナリアに騙されて国を危機に晒した後に、間一髪で捕まり二重スパイとして利用されていたらしい。


 戦争終結後に国を危機にさらしたとして処刑されたが、彼のおかげで戦争が早く終わったのも事実だった。


 妊娠は嘘でルナリアも処刑されたらしい。


「俺の何が間違っていたんだ、フィア」


 結局、ガルド様は最後まで、愛を知らない騎士様だった。

 


 跡取りのいなくなった子爵家はシオン様が継ぐことになり、子爵の爵位を二つ持つことになった。


 いずれ双子の息子がそれぞれを継ぐだろう。


 私とシオン様と双子の息子は、新しく継いだ子爵家を訪れた。


「フィア、手をつなごう」


「はい」


 愛を知らないままガルド様と過ごした日常を、愛を知ってシオン様と過ごす。


 とても幸せです。



【終わり】


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