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リシュエル1 魔導騎士リシュエル   作者: 五十嵐 綾子
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   ラスター ~2

2話の続きになります。

リードという魔導騎士の申し出を断っても良いことはないのが分った。むしろ、この男についていれば出世できるであろう事も。

 魔導騎士は魔術師としても騎士としても最高峰だ。

 魔導騎士というのは、なかなか弟子を取らないとも聞いた。自分を高める為の最高の機会と思った。その日からリードを師と仰いだ。


 その数日後リードと共に山へ修行に行く事になった。

 山では剣の稽古をし通しだった。

 より少ない動きで多くの敵にダメージを与える方法、将となる為のすべてを指導された。

「踏み込みが弱い」

「違う!なぜそんな動きをする。無駄な動きがあるから剣先が遊ぶ」

 細く軽そうな剣を振るうリードは動きが軽く、息を切らす事も無かった。

 最初は彼の動きに付いて行くのがやっとだった。

 訓練は厳しかったがリードは根気よく教えてくれる。俺はただひたすら彼の教えを聞き、イメージ通りの動きを実現する事に没頭した。理論は無い実践だった。


 食料を里から運ぶ、薪集め、重い鍋、火の扱いも全て俺の仕事だった。食費も持たず、御礼の為の貯蓄もない貧乏な剣士にとっては当たり前だった。

「お食事ができました」

鍋に野菜を煮詰めた俺が、師であるリードに報告すると、毎度の事だが彼がこう言う。

「お疲れ様。味付けはわたしがしますから」

「お願いします」

 師は味付けを終えると何時もの様に、俺に声をかけた。

「座って。お疲れ様。食べなさい」

「はい」

「どうですか?味は」

 「うまいです」

 いつも通りの味付けに、何も考えずそう答えた俺だったが、師はいつもと変わらず表情の無い顔つきで、当たり前のような口ぶりでこう言った。

「そうですか。この食事には実は微量ですが、毒が入っています」

 あまりにもさらりと言ってのけたその言葉に、驚きと信じられない思いで聞き返した。

「え?」

「怖がらなくて良い。以前から入っていました。もう体が慣れている」

「はあ…」

 そう言いながら師リードは平気な顔をしてその食事を食べている。

「この配合を教えますから、ずっと飲んでいると良い。微量を接種していれば毒に体勢がつきます。戦争では魔術師や魔導士が裏で協力する事があります。将軍や強い武将になると毒物を混入される事が多々ある。ひどい時は城内や街まで全て水が飲めなくなる。ラスター、あなたは生き残らなくてはいけない。食べましょう」

「はい」

 毒と聞いて一瞬ゾッとしたが、体は今まで何とも無かったし、師の言うことは正しい。毒殺などしょっちゅうある事だ。そして俺が生き残らなくてはならないと言う彼の言葉は、俺が武将として強くなるというお墨付きのでも言葉あった。

 

 師は時々出かけた。魔導騎士となれば仕事は多くあっただろう。師の居ない留守中は自分で鍛錬した。

 ある日、師が馬を2頭連れて戻った。

「そろそろ、馬に乗れるようになりましょう。明日から里への食料の買出しは馬を使います」

 その日から乗馬の訓練が加わった。槍も、短剣も体術も何でも教えられた。

 

 ある夜、蝋燭に火を点した師が言った。

「ラスターこの蝋燭の火を消してください」

 吹くと消えた。

「良いでしょう、もう一度点けます。他の方法で消してください」

 扇いだり、唾をかけたり、指でつまんだり、思いつく事は全部した。師は何度も火を点し、俺はあらゆる方法を考えた。水か風を使えば消える。

「他には?」

 とうとう何も思いつかなくなった。

「どうしました?」

 腹立たしくなった。こんな事の何が勉強になるのか理解できない。

 師の手から蝋燭を取り上げ地面に投げつけた。

「意味が分りません」

「そうですか。では」

 突如、師の足元の地面が丸く赤くなる、師の立っている周囲に焔が上がった。師の木綿の衣類に火が移る。

 咄嗟に、足元の砂を大量につかめるだけ掴みどんどんかけて、一カ所だけ人が通れる程度の広さに火を消し、師を助けるために焔の輪の中へ走って入った。

「大丈夫ですか」

「来られましたね」

 とたんに火が静まる。そうだった剣の稽古ばかりしていて忘れていた。師は魔導師でもあった。

「優秀です。あなたは意志の強い戦士だ」

 師には一年以上、たっぷり指導して貰った。


 ある日、師が共に戦場に赴く事を俺に告げた。

 師と共に戦に行くと天幕の中へと案内され、師の側で戦況の報告を聞いた。

「私は、今日は何もしません」

 武将達が訝しげな顔をする中、師はいつもの無表情のまま続けた。

「今日は私の弟子が全てやってくれます」

 いっせいにその場の全員の目がこちらへ向く。

「ラスター、頼みましたよ」

「はい」

「わたしは、ここで待っています」

 はいとは答えたものの、なんの打ち合わせも無く、師からの指示も何もなかったが、師に言われたのだから黙って戦場に立つしかなかった。

 師は人前に姿を表す事無く、影から魔術を使って俺の戦いの後押しをしてくれ、戦跡を上げて行った。一年経つか経たぬうちに、国の中で有名な戦士になった。

 王宮仕官に上がる日、師から呼ばれた。

「今日からは、王の下、エル・ソニュル王国の為におおいに活躍してください」

「はい」

「修行を頑張ってくれたので、これをあげます」

「なんですか?」

「手首用の鉄製のバングルですが、簡単な仕掛けが…」

 そう言いながら、師は自らの手で両腕にバングルをはめてくれた。

「ここから」

 師がバングルの手首の内側を押すと、バングルの手の甲の側から太い針のような剣が飛び出してきた。

「これは…」

「針剣が思った通りに出るようになるまで練習してください」

「しかし」

「人はいざとなれば卑怯などありません。生き残らねば何もできない事を覚えておいてください」

「はい」

「では、頑張ってください」

「はい!有難う御座いました」

 この時初めてリードの笑顔を見た。何時(いつ)も無表情だった師の顔に感情らしいものを見たのは二度目だったが、一度目とは全く逆の表情に驚いた。今まで全く知らなかった。我が師リードは美しい笑顔をする青年だった。

 師を見送りながら涙を溜めた。

「それから、私の本当の名前はリシュエルです」

 師は振り返らずにさらりと言った。

 唖然とした。有名なあの魔導騎士リシュエル。友達が会った事があると言っていた。言われてみれば友達が言っていたのと同じ長い漆黒の髪、すらりとした体だった。

 友人の話では優しそうな若い男の人だったが、最初の印象が恐ろしく、友人の言葉とは違い過ぎていたから気が付かずに来たのだった。

「また会いましょう」

 師は去っていった。

 その後、俺は戦略も勉強し王宮騎士になり、戦でラスターあれば、負けないとまで言われる程になった。



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