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リシュエル1 魔導騎士リシュエル   作者: 五十嵐 綾子
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14話 審判会議の日~1

 翌、審判の日。自分の寝室で目が覚めたグラウダ大臣は、夕べ自分が何時床に入ったのか覚えていないのが不思議だったが、テーブルに酒とグラスが有るのを見て、酒を飲んで酔っていたのだろうと考えた。それよりも、今日の審判会議の事の方が気がかりだった。抜かりは無いはずである。

 自分が毒薬を買った商人にゼルクルが毒薬を買ったと証言させる。イルス王子の側に侍女として置いていた女に、セゥルド王子の魔術の教師が、イルス王子の食事の側をうろついていたと証言させる。セゥルド王子と信頼関係を持つ二人がセゥルド王子の命を受け、イルス王子の殺害に至ったのだろうという風に話を持って行かれればよい。その為の報酬は商人にも侍女の女にも十分にしてあった。

 先週より、イルス王子の殺害犯を審議する貴族会議を開くから、セゥルド王子は身の潔白を立てたいのなら、王宮に戻るようにとおふれを出させた。おそらく、セゥルド王子が現れるであろう。もし、現れないのであれば自ら犯人であると証明したも同然で、裁判は自分の計画通りに進めやすい。セゥルド王子が現れなくても裁判会議の後にイルス王子殺害の主犯として捕えさせれば済む事。

 グラウダ大臣は、審判会議のお膳立てと、事の運び、全て自分が書いたシナリ通りになるのを楽しみにしていた。

そうなれば、残る王位継承者は自分の孫であるキリアル王子のみ。誰に反対をされる事も無く、自分の孫を王位に就ける事が出来るだろう。後は自分が執権となり、この国は自分の物になったも同然と考えていた。


 審判の時間が迫る中、貴族、政治家が次々と審判会議をする大広間に集まってくる。

席が全て埋まると、国王が皆より一段高い場所にある国王の席に座し、審判会議を開くと宣言した。

 リードとゼルクルは誰の目にもよく見える、大広間の中央に立たされた。

グラウダの息が掛かっている進行役の男が、ゼルクルとリードに質問をする。

「名を述べよ」

「ゼルクル・ムスクラド」

「リード・マドリッド」

「ゼルクル氏は以前よりセゥルド王子と懇意にしていて、セゥルド王子が次の王位に就くべきと日頃から皆に話しておりました。ゼルクル氏はイルス王子に盛られた毒物を商人より入手した嫌疑で捕らえて御座います。

もう一人、リードと名乗るセゥルド王子の魔術の教師は、イルス王子に毒を盛った実行犯としての嫌疑で捕らえております。この二人は嫌疑を認めておりません」

 会場の参列者は全員、ゼルクルとリードに注目していた。

 丁度、その頃、王宮の門では、門番達に行く手を阻まれるセゥルド王子一行が居た。

「私、王子セゥルドは、身の潔白を明かすべく、審判会議に参じた。皆、そこをどき、わたし達を王宮に通せ」

 王子セゥルドが言ったが、グラウダに捕らえよと命令されていた兵士は、王子達を捕らえようとしていた。兵士の一人が王子を捕らえるべく、足を一歩踏み出したが、その兵士の目前に小さな雷が落ちた。テュルーナスによる、魔術の雷の一閃だった。

「王子に手を掛ける事は私が許しません」

 テュルーナスがきっぱりと言った。

「俺も同じだ。王子を捕らえたくば、俺と剣を交える事を覚悟するのだな」

 ラスターが剣スラリと引き抜いた。今、ラスターの瞳は戦いに長けた戦士らしく迫力のあるものだ。

 王宮に勤める者なら、ラスターの強さは、誰もが知る所である。魔術師テュルーナスと戦士ラスターの放つ気迫に兵士の全員が気後れした。

「先程、王子が申し上げられた事を、お聞き逃しか?王子は身の潔白を明かしに来られた。もし、王子に罪が無かった時、王子に手を掛けた者がどうなるかわかっているのか?」

 ミストの堂々としたその言葉に兵士達はますます迷った。

 王宮の門を守る兵士達の責任者が、全員に後ろへ下がるように命令した。

ミストは、責任者に向かって言った。

「王子と私達を、審判会議の間へ案内してください」

「今、私達の行く手を阻まなかった者の恩には必ず報いよう」

とセゥルド王子は大きく声を上げ宣言した。

「畏まりました」

 セゥルド王子一行の気迫に負けた兵士達の見守る中、堂々と審判会議室へ向かう王子は、ミストに小声で話した。

「随分、堂々たる発言だったな、迫力があった。あそこまで言うからには何かリードから確たる勝ちを知らされたか?」

「いいえ、何も。ですが、私はリードを信じています」

「師弟の信頼か。成る程、では、私も彼を信じよう」

 審判会議室では、商人がゼルクルに毒物を売ったと証言をし、グラウダの息が掛かった侍女がセェウルド王子の魔術の教師がイルス王子の配膳の周辺で怪しい動きをしていたと証言を終えたところだった。

 グラウダは事の運びが予定通りで有ることに満足していた。

 そこへ、一人の使者が入って来て、セゥルド王子が現れたと告げた。

 もう既に証言は終わっている。後は、セゥルド王子と懇意にしている者が関わっていたと一言添えるだけで、セゥルド王子は事の首謀者であるとなるだろう。王子がどのように言い訳をしようとも、動かぬ証言が有る限り、セゥルド王子がイルス王子を暗殺させたと思われるであろう。グラウダは丁度よいタイミングで王子が現れた事を内心喜んでいた。

 セゥルド王子は落ち着いた様子で、審判会議の間へ入室し、王の前に跪いた。


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