12話 審判会議の一週間前
翌日、ミストの元へ一羽の白い鳥がやって来た。
ミストはその鳥の声を聞き終わると立ち上がり、急ぎ王子の部屋へ向かった。
「王子、たった今、リードより連絡をもらいました。王都へ戻る時が来たようです」
「そうか、それで、リードはどうなのだ?無事でいるのか?」
「はい、その様に伝えられました。一週間後、裁判が行われるそうです。その時に王宮へ戻られるようとの事です」
「裁判と?イスルの暗殺者を皆の前で私だという事にしようとグラウダが企てているという事か…」
「そう連絡を受けております」
「ミスト、ラスターとテュルーナスを呼んで話し合おう」
「はい、呼んで参ります」
セゥルド王子、ラスター、テュルーナス、ミストの四人に、巫女ルーニアを交え王都へ向かう策を練った。
牢獄に居るリードは翌日から、拷問部屋へ連れて行かれなくなった。
ゼルクルは、何故、急にリードが拷問を受けなく成ったのか不思議に思った。
「リード殿、今日は拷問係がきませんな」
「ええ、ときにゼルクル殿、体を綺麗にしたくなりませんか?」
「それは、まあ、確かに。何日も風呂に入っていませんからな」
「そうですねぇ。審判会議も近い事ですし、そうしますか」
この牢獄の中で風呂などと、いきなりのリードの提案に何の事かと悩んで居ると、リードが居る牢の方向からカチャリと牢の錠が外れる音がした。
リードは当たり前の様に牢の扉を開け、牢の外へ出た。それを見咎めた牢番がリードの方へ急いでやってくる。
「おい!」
門番が何かを言おうとする間もなく、リードが門番の頭に手を置いた。すると、突然、門番はぼんやりした顔になった。
「すみません、風呂に入って体をさっぱりしたいのですが、私の魔術の教室まで連れて行って頂けます?」
牢番は、ぼんやりとした表情のまま、はいと言ってリードの手に紐をかけた。
「ついでに、隣の牢の方もお願いします」
牢番は言われるまま、ゼルクルの牢を開け、ゼルクルの腕にも紐をかけ、牢からリードの魔術室へと連れて行った。
「リード殿、これは一体どういう事です?」
「わたしも魔術師ですから、この位の事はできます」
「しかし、牢屋には魔術師が入牢する事も考慮に入れて、魔術封印の魔術がかかっている筈だが」
「これでも、王子の魔術の教師を預かる身ですから」
「成る程…、普通の魔術師よりも力があるということか」
「わたしの魔術の教室の二階に風呂があります。わたしの部屋へ着くまでは、目立たぬよう、口を閉じていて下さい」
「うむ。そうしよう」
魔術室へ着くと、リードは牢番にリードとゼルクルの手にかけられた紐を外すさせ、室内で待っているようにと言い渡した。
ゼルクルとリードが入浴を済ますと、リードは、清潔そうなフードの付いた魔術師のローブをきっちりと着込みながら、ゼルクルに声をかけた。
「ゼルクル殿、審判会議の日に、如何にも罪人らしき汚れた服も何ですから、あなた様の部屋へ衣類を取りに行って参ります。お部屋はどちらでしたか?」
「そんな事も出来るのか?」
「ええ、まあ、わたし一人でしたら、人目に付くこと無く行って来られますから。お部屋だけ教えて下さい」
「しかし、そんな物を持って牢に戻る姿を見られては、まずいのではないか?」
「袋にでも入れて、牢番に持たせればよろしいでしょう。わたしも着替えは数枚欲しいですし、お部屋はどちらですか?」
リードはゼルクルの王宮内の私室へ行き、衣類を持って戻るとゼルクルの服を袋に入れ牢番に持たせた。
それから、リードは自分の魔術師の服を壁に掛け、服に向かってなにやら呪文を唱えると、魔術師の服からリードの顔が生えてきた。
「わたしは、審判会議までに、しなくてはならないことがあります。申し訳ありませんが、この牢番とわたしの影と共に、グラウダに気付かれない為に先に牢のほうへお戻り下さい。」
「分かった。君の策を聞きたかったが、君は頼りになる男のようだ。審判会議の日にまた会おう」
リードが牢番に、ゼルクルの腕に紐を掛けて牢に戻るように言うと、牢番は、ぼんやりした表情で言われるままになった。翌日リードは何時の間にか牢内に戻っていた。
審判会議の一週間前、国中にあるおふれが出た。王の勅命である。
「一週間後。イルス王子の殺害犯を明らかにするべく、審判会議を執り行う。
セゥルド王子はイルス王子殺害の嫌疑を晴らしたくば、審判会議に参列するように」
という内容の看板が国中の街角に立てられていた。