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リシュエル1 魔導騎士リシュエル   作者: 五十嵐 綾子
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11話 対峙者

リードはその次の日も、また次の日も、執拗に拷問を受け、朝から夕刻までは拷問部屋、夕方には牢獄へと戻されるという日々を四日間過ごしていた。

 朝と晩には野菜の屑等が入った粥状の食事が牢に運ばれて来たが、リードはそれを口にする事も無かった。

 四日目の夕刻、食事が配られた後、リードが壁に寄りか掛かり座っていると、背中の方の壁から声がした。

「もし、失礼ですが、あなたはどういう罪状で捕らわれたのですか?」

 若い男の声で言葉遣いは丁寧だった。

「わたしは、イルス王子殺害の嫌疑を掛けられたセゥルド王子を逃亡させた罪で捕らえられています」

「そうでしたか。それで王子の居所を聞きだ出す為に、拷問を受けられておられるのですね?」

「ええ」

「相当、酷い目に会われておられる様子ですが、大丈夫ですか?」

「はい、お言葉遣いから、あなた様はご身分のある方とお見受けしました。あなたは何故この牢に?」

「失礼しました。私はゼルクル・ムスクラドと申します」

「ゼルクル殿?先々代の王より代々政治を司って来られた家系の御当主、そうでしたか。わたしはセゥルド王子の魔術科の教師です。リードと申します。」

「私をご存じでいらっしゃいましたか。おっしゃる通り、私は、以前は東の大臣家の一派として働いておりました。しかし、ある夜会の折にセゥルド王子と話しをする機会がありました。セゥルド王子は、今この国は十分過ぎる領土を持ち、東の大臣がより領土を広げようと戦を続け、それにより西の大臣家が武器を売り、必要以上の利益を得ておられ、その上、陛下に気に入られて居るのを良いことに、陛下と共に無駄な散財が多い。この国は戦で両親を亡くした子供や、余分に取られる税で苦しむ民で溢れている。このままでは国政は悪くなるばかり。今は戦は必要なだけにして、無駄に領土ばかり増やすよりも、国民が十分な富と教養を得ることに力を入れ、国民が元気に働ける事で国内が豊かになるべき時だ。とおっしゃった。私はセゥルド王子のお考えに感銘を受け、グラウダ大臣と対峙する立場になりました。そして、先日のイルス王子の毒殺事件にグラウダ大臣の関与があるのではないかと、調べていた矢先に、道で暴行を受け気を失いました、気がつくとこの牢へ投獄されていたのです」

「そうでしたか。それで、調べは、どの程度まで進んでいたのですか?良ければ教えてください。わたしはセゥルド王子をお助けする為にこの王城に自ら残って、こうして捉えられている身ですから、あなたと様とは同様の立場です。」

「そうですね。お話しましょう。私の配下の者をイルス王子の側に潜ませておりました。イルス王子が亡くなった直ぐ後、侍女が1人姿を消しているので、グラウダ大臣の動向を調べさせた所、ある商人から、何かを買ったらしいという所まで調べが付き、その商人も行方が知れないので、追っていた所でした。そこまで調べて此処へ拘束される羽目に至ったので、私はそこまでしか調べられませんでした。」

「成る程…。つまり。グラウダの考えはこういう事ですね。王子を捕らえ、姿を消した侍女を呼び、国王陛下の前でセゥルド王子があなたと結託しイルス王子を暗殺企てたと証言をさせる」

「恐らく」

「とすると、予定外ではあるが、丁度良く、王子を逃亡させたわたしを、イルス王子の食事に毒を盛った実行犯としたい。そんな所でしょうね。王子と共謀した者の人数は多い方がグラウダ大臣にとっては都合が良い」

「そうですな。王子に味方する者を一掃する格好の機会でもあるでしょう、見せしめにもなりますから、適度に人数が居た方が良いでしょうな。被害を受けたく無い者たちは、グラウダに対して大人しくなるという目論見でしょう」

「良いことを教えて頂きました。ありがとうございます。わたしは、あまり多くを調査する時間が無くて調査不足でしたから、これで決着を付け安くなりました」

「リードさんは、随分と拷問されていらっしゃるのに、そのお体で何をなさるつもりですか?私に出来る事があれば…」

「ご心配には及びません。わたしが全てを片付けます故、もう暫くのおご辛抱を」

 

 翌日、朝から、王子の居場所を聞かれ拷問を受けていたリードの顔に鞭が当たった瞬間、拷問長が慌てたように、

「おい!顔に傷を付けるな、体もあまり傷はつかない様に打てと言ってあっただろう。体に傷がついているじゃないか。気を付けろ」

 と言った。言われた拷問士は申し訳なさそうな態度を取った。その様子をリードは見逃さなかった。

「何故?わたしの顔に傷を付けてはいけないのです?」

 リードの問いに、拷問長はニヤリと笑って答えた。

「お前は知らんだろうが、グラウダ様は若い男を可愛がるご趣味をお持ちでな」

「可愛がるとは?如何様な事ですか?」

「ふっ、分からんのか?お前の様な若い男の体を弄び、飽きれば捨てるのだ。お前のように希な美形はさぞお好みだろう。あと一週間ばかり経ったら、国王陛下の御前で、誰がイルス王子の殺害犯かの審判会議をする。もちろん、計画者はセゥルド王子、そして、王子を逃がしたお前が、直接手を下した犯人に決まるだろう。その後お前は、表向きは再び投獄されるという事になるが、実際はグラウダ様のお相手をする事になるだろうな。死にたくなければ、せいせいグラウダ様に気に入られて飽きられない様にご奉仕することだなっ!!」

 拷問長はそう言うと高らかに笑った。しかし、その声と同時にクスクスと笑う声がした。

 その笑い声はリードのものだった。

「なにが可笑しい!」

 拷問長はリードの馬鹿にした様に笑う態度に腹を立てて怒鳴った。

「あなたは、わたしが此所へ来るまで一流の拷問士としての腕に自信を持っていた。所が、わたしが此所へ来てから少しばかり違ってきた。わたしが口を割らぬどころか、叫び声の一つさえ上げぬのに腹を立てておいででしたね」

「なにを!生意気な!」

 図星を指された拷問長は更に怒りを露わにした。

「わたしが、痛みに声さえ上げなかったのは、あなたが腹を立てて、先程のように無駄な情報を口にするのを待っていたからです」

 冷静なリードの言葉にそれではまるで、拷問を受けていたのが自分の様に感じ憤慨した拷問長は、自分の持てる力の限全てで、この生意気な囚人に鞭を入れようと、鞭を持った手を上げようとした。しかし、何故か腕が動かない。

 その時、カチリという音がし、それと共にリードの腕に嵌められていた拘束する鉄の輪が外れた。拷問長は我が目を疑った。

「いつでも外れる物を付けているのは面倒でしたが、お陰で有用な情報が手に入りました。あなたのお陰です。感謝しなくては」

 拷問長と他二名の拷問士は、驚き、リードを再び拘束しようと慌てたが、彼らは体を動かす事が出来なかった。どう頑張っても指の一本さえ動かないのだ。

「わたしも、痛い思いをさせて頂いたお陰で少しばかり体力を使いました。あなた方もお疲れでしょう?お礼にゆっくり休める様に楽にして差し上げます」

 リードはそう言うと、体を動かす事が出来ない拷問士に軽く口付けをした。リードの軽い口付けを受けた者は一人、また一人と倒れた。

 拷問長の前に立ったリードは、にこりと笑った。

「怖がる事はありません。少しばかりあなたの寿命を頂くだけです。今日のことは忘れ、明日も今日と同じように生活できますよ。それから、この汚らしい拷問部屋へわたしを二度と連れてこないで下さいね」

 そう言うと、拷問長の顎を指で支え、恋人に口付けをするかのように、拷問長の寿命を奪った。

 拷問長が倒れた後、リードの体に付いていた傷は何事も無かったのように癒えていた。


 ゼルクルは、拷問部屋の鞭の音が止まったのに気付いた。

(まさか、リード殿が力尽きられたのか?)

 そう考えていた時であった。牢番が隣の牢扉を開ける音がして、人が牢に入る気配があった。

「リード殿、大丈夫ですか?」

「はい、ご心配を頂き有り難うございます。新しい情報を入手して参りました。一週間後、わたし達は裁判を受けるようです」

「一週間後、しかし、セゥルド王子は逃げておられるのに、裁判になるのですか?」

「グラウダは業を煮やしたのでしょう。国中に裁判を執り行うと噂を立てれば、王子が現れるであろうと考えたのでしょう、もし、現れなかったとしても、姿を消している侍女やグラウダの息がかかった商人にゼルクル殿が毒を購入したと証言させ、適当な侍女か誰かに、わたしが毒を盛るのを見たと証言させれば、王子と縁のある者が動いたという理由で王子を首謀者として、後で王子を捕らえる事が出来ると考えているのでしょう」

「それは、困った事になったな」

「ええ、ですが、わたしに策があります。お任せを」

 リードは床に落ちている鳥の羽根を手に持つと、小さな声で呪文を唱え、息を吹きかけた。羽根は白い鳥になり、牢の窓から夜の闇へと飛び去っていった。


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