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リシュエル1 魔導騎士リシュエル   作者: 五十嵐 綾子
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9話 西の大神殿

私達四人は魔術師のローブを身にまとい、フードを深く被って馬に乗り、王都の外門に達した。バルヌの仲間数人が馬を引いてくれている。私たちの後ろには荷車を引いているバルヌの仲間がいる。荷車には食品と衣類、剣と杖を乗せている。魔術師が杖を持ち歩くのは常識だが、剣を持ち歩くのは門番に怪しまれる可能性があるので、剣だけは荷車の荷物の奥に隠して入れてある。

 バルヌは門番と顔見知りらしく、明るい笑顔で門番に声を掛けながら通行証を見せる。

「よお、元気かい?」

 声をかけられた門番は知り合いのバルヌに警戒心がないらしく、

「なんだ?今日は行商に行くんじゃないのかい?」

 と、気軽そうに聞いた。

「荷車は殆どが売り物だよ。そっちの人たちはさ、魔術師なんだけど、これから東の砦まで行くらしいんだ。丁度行商に行く方向だから、用心棒を頼まれたって訳さあ」

「へぇ、そいつは良い話じゃねえか、ま、気をつけて儲けて来な」

 そんな簡単なやり取りで、王都の門を出た私達は、その後バルヌ達と別れ、西方にある地の大神殿へと向かった。

 バルヌ達と別れて少し時間がたったところで

「ふーむ、問題があるな」

 セゥルド王子が馬上で口を開いた。

「は?えっと、何か必要な物が足りなかったですか?」

 私は何か足りない物があるかと荷物を調べようとした。

「いや、ミスト、君のことではない。バルヌの通行証だけで、私達が門をくぐれてしまった事を言っているのだ」

「ああ、その事でしたか、でもそのお陰で無事に王都を出られたのですから」

 私は、自分に問題があったのかと焦ったが、そうではなく、王子は王都内の安全性を考えていたらしかった。王都を離れてから腰に大剣つがえた護衛のラスター様が

「そうです。王子、今はそんなことをおっしゃっている場合ではありません。追っ手がこない間に先を急ぎましょう」

 そう言うや、馬を走らせた。

乗馬があまり得意でなさそうなテュルーナス氏が一番後ろを走っていた。


 二度馬を変え、四日程後、西の大神殿へ至った。

 西の大神殿の石造りの門をくぐり、大地の女神の像がある大きな庭で馬を降りた私達に神官服を着た女性が声を掛けてきた。

「地の女神の神聖なる地へようこそいらっしゃいました。救済をお求めにおいでですか?」

「はい、実は込み入った事情がございまして」

 私は、王子をお連れした事をお伝えするべきなのかどうか、迷った。もし、この神殿内に王都の内通者が居ればあっという間に王子を捕らえに来るだろう。リードの支持はただ、西の大神殿へ行けとだけだった。

「皆さん、色々な事情をお抱えです。どうぞご遠慮なく神殿へお入り下さい。丁度これより、巫女ルーニア様が神殿にてお祈りを捧げられる時間になります。奥の神殿へは入れませんが、今日は月に一度の巫女様が皆様の前でお祈りを捧げられる日ですから一般の方が入られる神殿までおいでになります。是非ご参列下さい」

「はい、有り難う御座います」

 私は事情を話すのは取り敢えず控え、神殿へ向かった。

 大理石の床に多くの人が、大地の女神の像がある祭壇に祈りを捧げる中、私達四人は最後尾に座した。神殿に入る時はフードを頭から下ろすよう言われ、王子の顔を人に見せるのははばかられたが、仕方なかった。

 暫く経つと、大太鼓の音が神殿内に響き渡り、神殿内の参拝の人々が一瞬嬉しそうな声を上げ、直ぐに静まり、全員が跪いた。

 神殿の太い柱の後ろにある扉から、この大地の大神殿の巫女であられるルーニア様が使者を伴い、祭壇に現れた。

「皆様方、本日はよく母なる大地の神殿においでくださいました。大地の女神の慈愛を皆様方がお受けに成られますようお祈りいたします」

 よく通る澄んだで巫女ルーニア様がそう言うと、皆が両手を合わせた。

 巫女ルーニア様は、後ろを向き、大地の女神の像へ祈りを捧げる。緑色の美しい髪、清浄な巫女らしき声。山育ちの私は、初めて見る巫女様がかくも美しいものかと、惚れ惚れと見ていた。

 巫女様の祈りが終わり、神殿から退室され暫く経つと、神官服の女性が巫女様が私達と話をしたい。と申されていると声をかけられた。

 私達はその神官服の女性に付いて巫女ルーニア様の部屋へと案内された。


 巫女ルーニア様の部屋の大きく重たい扉が開かれる。白い机と椅子が置かれた、ルーニア様の来客用私室内に飾られている色とりどりの花の香りが充満していた。

 巫女ルーニア様は人払いをなさると、セゥルド王子に礼をした。

「セゥルド王子様、このような山奥までおいで頂き、恐悦でございます」

「ルーニア殿、そのように改まって頂いたのでは私の方が気が引ける。どうか、頭を上げて下さい」

「はい、有り難う御座います。この度はイルス王子様が亡くなられて、さぞ、お心痛みなさっていらっしゃるかと存じます」

「もう、聞き及んでいましたか、こちらの神殿に伺ったのには理由があります」

「わたくしに出来ます事でしたら、なんなりとお申し付けくださいませ」

「うむ、有り難い。実は、今、私にイルス毒殺の嫌疑が掛けられている。それ故、王都より身を隠して参った。暫くの間、我々をこの大地の神殿に匿ってはもらえぬだろうか?無論、迷惑がかかりそうになったら、直ぐに退散する」

「迷惑などと、今年の新嘗祭に王都へ参じました折には、暖かいお言葉を頂戴して、大変感激いたしました。どうぞ、ごゆっくりと旅のお疲れをお癒し下さいませ。この奥殿には来客用のお部屋が御座います。其方を用意させて頂きました。テュルーナスとラスター、それにもうお一方のお供の方のお部屋もご用意させて頂きますわ」

 テュルーナスとラスターは顔を見合わせた。

「ルーニア様、何故、私共の名前をご存じですか?」

 ラスター氏が遠慮がちに口を開いた。

 すると、ルーニア様はいたずらでもしている子供のようにクスクスと笑った。

「覚えていらっしゃらない?わたしよ、ルゥナ」

「ルゥナ?ルゥナってあのおてんばの、髪が赤い?」

 テュルーナスが驚いたのか思わず大きな声を出したらしく、慌てて改まって聞き直した。

「あっ、失礼しました。その、王宮経営学校の時に友達だったルゥナですか?」

「ええ、髪の色は巫女としての能力を得た時に変わってしまいましたけど、そのルゥナよ」

「ルゥナ!、おお、本当にあのルゥナか?そう言えば面影があるな」

 ラスター氏はとたんに破顔し懐かしそうに彼女の顔をしっかりと見た。

「ええ、本当に久しぶりね、新嘗祭の時にセゥルド王子様の護衛をなさっているのを見たわ、立派になっって、とっても驚いてよ」

「いや!驚くのは俺の方だ、あのおてんばのルゥナが大地の女神の巫女様とは」

「ちょっと、ラスター、今は巫女のルーニア様なんだから、あんまり馴れ馴れしい話し方はいけませんよ」

そう言う、テュルーナス氏の顔も懐かしそうにほころんでいた。

巫女様とラスター様とトゥルーナス様はご学友だったらしい。


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