7話 王位継承権
私、王子セゥルドはここ数年の間に、多くの貴族達から、王位継承権を得るべきだという進言を受けていた。その者達は、西の大臣、北の大臣、そして、その両大臣に意見を同じとする。要するに、新しい政権を望む者達である。
私自身は是非に王になりたいとまで願った事は無かった。
何故ならば、私の弟であり、東の大臣という強力な後ろ盾のある、正妃の子、イルス王子が王位継承権が最も上と誰もが思って来たし、更には、近年父に気に入られ、娘御を第二妃として、父に差し上げ、大臣となった東の大臣の姫君の王子キリアルが、私よりも母の位が高いからである。私は、自分が王位継承権を主張する事で、国情が不安定に成るのを望まなかった。
実際には父である現王が、政治に対し全く関与しようとしないので、誰が次期王と明確な事は言っていない。それが、大臣、貴族達を分裂させているのも事実である。
父王は兼ねての政治は大臣、政治家、貴族達に任せきりである。
先々代の王がご存命の時、父があまりに政治に興味を示さない様子を心配し、ある男にこの国の先行きを助して欲しいと頼み、その男というのが、リードであった事を、近衛隊の長であるヴォルドーから聞いたのはつい最近の事であった。
リード、すなわち魔導騎士リシュエル。彼が何故、私を気に入り、支援してくれたのか、私には解らぬ事だったが、今思うに、彼は誰の後ろ盾も無いからこそ、私を選んだのではないかと思う。彼が望んでいるのは新しい政治体制なのであろう。
そして、子供の頃より、王位継承権が無いと思われ、特別な扱いも受けず、気が向いた時に何時でも城下へ出かけ、民衆の生活を垣間見てきた私を、善き王に成れるだろうと判断したのでは無いかと思う。
さて、私のこの所の心配は、王位継承権争いに業を煮やしたグラウダ大臣の動向である。父王に気に入られてからの彼の権勢たるは、まさに飛ぶ鳥をも落とす勢いであるが、
父王の衰えにいささかの不安も感じているだろう。
そして、不報が知らされたのも、何も無い事を祈っていた矢先であった。第2王子東の大臣家の王の正妃の息子である、イルス王子が、毒殺されたという物であった。
宮殿内の誰もが騒然となり、緊張が高まった。
権力者達の間で多くの噂が飛び交い、明らかなる言い争いなどが勃発するようになった。
その事件より、一週間に満たなぬ頃、私の元にミストという青年を伴ったリードが現れた。
「王子、次はあなたの番ですね」
というリードの言葉の意味は深かった。
次に命を狙われるか、はたまた、イルス王子を暗殺を企てた者とされるか、そして、何より、身の潔白を明かすには、王位継承権を得るしか無いのだろうという事なのだ。
わずか数日の間に、私の覚悟は決まっていた。