セゥルド王子との面会~2
リードが立ち去る姿を見送ると、ラスターが口を開いた。
「あの人は、相変わらず若いな」
あの人というのは、無論リードの事である。
ラスターは続けた。
「テュルーナスが出会った時は確か…」
「私が中等部に上がる少し前でしたから、6年程前した」
「俺があの人に出会ったのが、その少し後だから、もう5年にはなるか。俺はその頃15だった。あの時はあの人の落ち着いた雰囲気から5歳位は年が上に見えたが、今見ると、どう見ても10代半ばにしか見えない。外見が若く見えるにしても、あまりにも若すぎる気がするが…」
「私もそう思う。私は彼が、私の教師として最初に来た時から何度も彼を見ているが、全く年をとっている様に見えない。一度年齢を聞いた事が有ったが、答えてもらえなかった」
王子の話しに耳をかたむけながら、彼が魔導騎士リシュエルだという事を話して良いものかどうか悩んだ。
「テュルーナス、お前は魔術の専門だろう?若さを保つ魔術というのがあるのか?」
ラスターに聞かれ、言い淀んだ。
「そうですね…。あの方は特別な能力をお持ちでいらっしゃいますから。ただ何というかその、あの方の場合は我々が学んでいる魔術というものとは少しばかり異なるもので…」
「確かにな、彼は我々とは少しばかり違うのかもしれない」
王子は、その言葉でこの話をくくった。
あまり彼についての良からぬ噂が広がる事を好まないのだと思われた。
その後、この会見の間に、ラスターも居てくれたお陰か、私はすっかり王子と打ち解けていた。
王子のお人柄は好ましく、王子の国の有り様の理想である、戦を減らし、多くの国との盟友関係を結びたいというお考えに夢中になって聞き入った。この時既に私は王子にお仕えしたいと思い始めていた。
会見の時間はあっという間に感じた。
使者が王子の自由時間終了の訪れを伝えに来るまでの時間がなんと短く感じられたことか。
「テュルーナス、とても楽しく過ごさせて貰った。是非また、君と話したい。次回は君の考えをもっと聞きたい。遠慮無く私に会いに来てくれ。ラスター久しぶりの級友との再会だろう、私の警護は他の者にさせるから、ゆっくり話したまえ」
そう言って、責務に戻られる王子のお姿を見送った後、ラスターが耳打ちしてきた。
「テュルーナス、お前はリードがリシュエルと知っているんだろう?」
「あなたはご存じでしたか。セゥルド様はご存じなのですか?」
「ああ、知っているだろう。ただ、この事は今の所はあまり多くの者に知られないようにしているらしい」
「そうでしょうね。普通の魔導師ならともかく、彼ほどの人となると実像を知られない方が有利に働くことも多いのだと思いますよ」
「そういうものなのか」
「ええ、魔術そのものが、一般には理解し難い不思議な物という認識あっての効果が有るのと同じ事だと思います」
「ふーむ、成る程な。俺にはよく分からぬがな」
相変わらず戦士らしい彼の言葉に、懐かしさを覚え、知らずと笑顔がこぼれていた。
帰り道、リードにセゥルド王子との面会の感想を聞かれ、私は、直ぐにでもお仕えしたい。と言った。
リードは、それはもう少したってからの方がよい。と言う
「どうしてですか?」
「ええ、それが、わたしの余計な心配でないと良いのですが、この先、数年の間に王位の継承権で一波乱ありそうな気がするのです。ですから、表立っていない方の力添えも必要ではないかと思っています。もちろん、王家のお家騒動が納まったら、正々堂々と、王子付きの魔術師として、仕えて欲しいと王子もお望みです」
「そうでしたか。私も人前に立たされる立場は苦手ですから、いきなり王子付き魔術師になるよりもその方がお仕えしやすいです」
「そうおっしゃると思っていました」
「リード、あなたには何もかもお見通しのようですね」
「とんでもない、わたしなど。世の中にはもっと長けている方が沢山いらっしゃいますよ」
終始、柔らかい笑みで接してくれる彼の美しい笑顔が心地よかった。