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リシュエル1 魔導騎士リシュエル   作者: 五十嵐 綾子
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6話 セゥルド王子との面会 ~1

ある日、リードが珍しく私の元へ来訪した。

私はこの時既に、王立魔術研究所の研究員であり、何度も戦に行った経験もあった。

 研究所の客間で私に来客が待っていると知らされ、誰だろうと思いを巡らせつつ扉を開いた。

 刺繍を施した緑色のソファー用の装飾布を覆った来客用の大きめのソファーにゆったりと腰掛けたリードが居た。

「リード!、お久しぶりです。お元気ですか?」

「ええ、おかげさまで、テュルーナス。あなたも元気そうで何より、王立魔術研究所で1,2を争う優秀な研究家と聞き及んでいます、将来は研究所の代表になれそうな勢いだそうですね、戦でも魔術師として相当ご活躍と聞きました」

 ひさしぶりに見る彼の笑顔が、相変わらず優しいので、私は嬉しくなった。

「はい、ありがとうございます。でもまだまだ未熟で、勉強する事は沢山あります」

「あなたの向上心は素晴らしいですね。やはり、あなたには才能があります。今日は、あなたをある人に紹介したいと思って伺いました」

「ある人?ですか?」

「お引き合わせしたいのは、セゥルド王子です」

「王子?」

「はい。あなた、王子の直属の魔術師になる気はありませんか?」

「私が、ですか?」

「ええ。あなただからです」

「そんなに評価して頂いていたなんて、嬉しいです。ですが、私には勿体ないお話で…。」

「勿論、急な申し出ですから、少し考えて頂いて、決めてくれれば良いと思っています」

「はい、確か、セゥルド王子と言えば、ラスターがお守りしているますよね。先日戦の時に参じました折に少しばかりですが、お声をかけて頂きました」

「ご存じでしたか。そうです。あなたのご学友、ラスター・バエル氏が護衛をなさっています」

「リード、どうしましょう。緊張してきてしまいました。私は、まだまだ未熟で、魔導師にもなっていません。そんな私をお召しになって、ご迷惑をお掛けするのでは無いかと心配です」

「緊張する事はありませんよ。あなたは有能で熱意は誰にも負けない魔術師です。セゥルド王子はお優しく立派な方ですよ。面会をされてから王子付きの魔術師になられるかどうかを決められて構いません」

  

 今、王宮内では、セゥルド王子の弟君で、東の大臣の御孫様に当たられる、正妃の王子イスル様が王太子であられる。

 一番年下の王子で、西の大臣、グラウダ様の御孫様、キアリル王子は、以前は王位継承権を2番目と見られていたが、セゥルド王子の近年の目覚ましいご活躍に、8年程前、現在の王に気に入られるまでは小さな領土の一領主でしかなかったグラウダ大臣お孫さんで未だ幼いキアリル王子よりも、セゥルド王子を第2継承者とするべきだと後押しする貴族達の声が高まっていた。

 大まかに言うなら、代々王家に仕えてこられた東の大臣家と、東の大臣家に対抗したグラウダ様との権力の二分を嫌う貴族達にとって、セゥルド王子は年齢も一番上でご活躍だと言う理由で次期王の継承権を主張し、自分達の立場を守る為にやり玉に上げるのには格好の方だ。

 私は果たして、セゥルド王子付きの魔術師になるのが良いのかどうか考えた。しかし、昔の学友であるラスターがお仕えしている方であることを考えると、きちんと会ってみたいと思った。

 その後、リードの友人という事で、リードに付き添ってセゥルド王子に会った。公式な面会ではなく、王子がリードとお茶をなさる時に招いて頂く事になった。

 王宮の庭、茶を嗜む為に建てられた六角形の日除け棚の下、明らかにセゥルド王子と解る白の上着に金色の刺繍の付いた礼装の方と、紺色で地味ではあるがきっちりとした軍服を着て、子供の頃とは見違える程立派になったラスターが座っていた。リードが王子に一礼し、私もそれに習った。

「セゥルド様、お久しぶりです」

「リード、堅苦しい挨拶はしないでいいですよ、そちらが今日、私に会わせたいと言われた方ですか?」

 リードと話す王子は凛としていながらも、どこか温かみを感じさせる雰囲気があった。

「はい。王立魔術研究所の有望な研究員のテュルーナスです」

「そうですか、リード、いつまでも頭を下げていないで、テュルーナス、でしたね。今は私の自由な時間です。堅苦しい事は抜きにして、くつろいで、座ってください。」

 リードは日よけのフードが付いた裾の長い、魔術服のフードを肩へ落とし、私に一緒に座るように合図をしながら、王子の向かい側に腰をかけた。

「テュルーナス、こちらが王子セゥルド様です」

「お招き頂いてありがとうございます。テュルーナス・マルデです」

 リードに習い、礼をして腰を掛けた。

「さっきから、堅苦しい事は抜きにしようと言っているじゃないですか。テュルーナス、先日の戦の折の活躍ぶり、見届けさせてもらいました。君の魔術をより有効に使う考えにも感銘した。すぐに私に仕えて欲しいとは言いません。せっかくのリードを通しての縁です。まずはラスターと共に私と友人になってもらえないだろうか?」

「は、あの、友人ですか…」

 私は王家の方のお言葉とは思えない友人の申し出をされた事に驚いた。

「ああ、すまぬ、驚かせてしまったな。ラスター、君からも頼んでもらえないか?」

「はい。畏まりました。後ほどで宜しければ」

「ラスター、君も固い言い方をするな、これではテュルーナスが緊張してしまうではないか」

 王子の言葉を聞いてクスクスと笑うリードの声が聞こえてきた。

「セゥルド様、テュルーナスが緊張しているのがよくお分かりですね。如何にも、彼は少しばかり人見知りをする人です。ですが、いざの時に彼の判断力は優れております。外見的には大人しく見えますが、彼は意志の固い人ですよ。それから、テュルーナス、王子は幼少の頃、王に成れる身分と扱われて居なかったので、よく御城下へ出かけられていて、堅苦しい王家の方らしからぬお人柄です。あまり王家の方で有られることを気になさらず、親しくなさってみては如何ですか?」

「リード有り難い。そういう事だ。遠慮せず私の所へ何時でも来てくれると嬉しい」

 王子はリードの気遣いにとても感謝した様子で、私に暖かく話してくださった。それを見たリードは、

「わたしが居ては、ラスターもテュルーナスと親しく話し難いでしょう。暫く庭でも散策して参りますテュルーナス、折角の機会ですゆっくりと話をして下さい」

 と言って、席を立った。リードが立ち上がる姿を見て、少しばかり不安を覚えた私の手に、セゥルド王子の手が重なった。私は王家の方が一介の魔術師に手をお触れになる事に驚いたが、王子の目は、暖かく、深い慈しみを感じさせ、私は安堵し、思わず笑みを見せていた。

 私も魔術を学ぶ者の端くれである。人に触れれば、相手の心の有り様や健康の状態が解る。そうでなければ、癒しの魔術などは使えないので、一応の修行はしているのである。

 セゥルド様の手から伝わってくるのは、安定した心と、暖かさ、物事をあるがまま受け入れる素直さと、前進する事への意欲ある強い心が伝わってくる。私はこの爽やかな心映えに、思わず緊張を溶いていたのだった。 


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