1
目の前で車が煙のように消える。
立川がその話を聞いたのは、ここに長期出張に来てから二度目だった。
「本当に見た人がいるらしいぞ」
社内ではその噂で持ち切りだ。
立川が聞いたのは二度目だが、ここに長く住んでいる人は何度も聞いたことがあるそうだ。
しかもいつも同じ道だ。
立川が一度も通ったことがない道。
立川の家と勤め先の間にはちょっとした山がある。
いつもはその山をぐるりと迂回して通っている県道を行くのだが、山を横断する道がある。
細くて険しい山道だ。
ゆえに県道よりも交通量が少ないのだが、距離的には短くなるので一定数の車が通う。
その道で目の前で車がすうっと消えるそうだ。
――一度行ってみるか。
つぎの日から、その山道が立川の通勤ルートとなった。
理由はただ一つ。
噂が本当なら車が目の前で消えるのを、見られるかもしれないと思ったからだ。
確かに細くて険しい。
話には聞いていたが、話の通りだ。
ただ通勤時間は少し短くなった。
でもそんなことは重要ではない。
――いつになったら見れるんだ。
この道を通いはじめてから、もう数か月になるというのに。
でも立川が見ていないところで車が消えたわけでもないようだ。
そんな話はまるで耳に入ってこない。
――明日くらい見られるかもな。
なんの根拠もなく立川がなぜかそう強く思った次の日のことだ。
立川がいつものように帰宅しているときにそれは起こった。




