表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

その後のことは知りません

勇者送還 その後に

作者: S屋51
掲載日:2025/12/06

家に帰るまでが遠足です

最後の最後まで気を抜かないでください

 人類に仇なす魔王を討伐するために異世界から召喚された勇者は見事その役目をやり遂げた。

 3つの人間の国からは感謝の言葉と莫大な報償、その他にも望むものを与えるとの申し出があったが、勇者は元いた世界へ戻ることを選んだ。

「本当に行くんだね」

 勇者を召喚した国の王女・アライアは魔法陣の中に立つ青年に寂しく微笑みかけた。

 勇者がこの世界に残るのならアライアと婚姻関係を結ぶ予定だった。言ってみればアライアは振られた形になる。

「悪い。やっぱり、向こうを捨てられない」

 召喚から魔王討伐まで3年を要した。

 その間、勇者と一番長く過ごしたのは剣士として同行したアライアだ。こちらの世界で最も親しくなった相手との別れは勇者も辛そうだった。

 けれど、元の世界とこちらの世界。

 どちらか1つ。両方は選べない。

 親や友人、勇者は多くの者をあちらに残して来た。それも理由を告げることもできずに。

 家族を忘れることはどうしてもできなかった。

「駄目ですよ、王女。勇者の凱旋をそんな湿っぽい顔で見送っては」

 そう言う聖女シズリは笑みを浮かべていたが、それが作り笑いであることは誰の眼にも分かった。

「向こうでも元気でね」

 魔女ラミスが最後の握手を求める。

「ああ、みんなもな」

 魔王を倒すためにともに旅した仲間たちとの別れ。

 勇者は感慨深く彼女らを見つめ、それから魔法陣の周囲にいる宮廷魔法使いたちに頷いた。

 魔法陣の中央に進む。

 魔法陣を取り囲む4人の魔法使いが詠唱を始めると光が満ちた。それは詠唱とともに強くなり、詠唱の終わりとともに消えた。

 そして、勇者の姿も消えていた。


「行った?」

「はい、送還術式終了です」

 王女の問いに魔法使いの1人が応じた。

「成功?」

「恐らく。なにしろ、確かめようがないので。しかし、今のところは問題ないか」

「そっか、行ったか。ああ、良かった」

「ちょっと、殿下」

 安堵して本音を漏らしたアライアにラミスが苦笑する。

「いや、だってさ、残られたら面倒だったよ」

「面倒って」

 シズリも眉間に皺を寄せる。

「やってくれたことに関しては感謝してる。これは本当にホントよ。でもさ、あいつってタイプじゃないのよね。

 けど、立場上結婚しなきゃいけなかったからさ」

 勇者が帰還を選択してくれたことで、婚姻の義務から逃れられた。

「それに、あいつ、こっちに残ることになったら絶対あたしだけじゃなくてシズリたちも嫁に寄越せって言ってたと思う。一夫多妻制があるって知ったら喜んでたから。

 あいつと結婚したかった?」

「友達ならいいんだけどねえ」

「夫となると、ちょっと……」

 シズリもラミスも決して勇者のことは嫌いではなかった。

 しかし生涯を共にする伴侶としてはどうかと聞かれると言葉を濁すしかない。

 もし彼が2人を妻にしたいと言えば、それはとても断れる話ではなく、2人の祖国もどうぞどうぞと差し出すだろう。

 それほどに彼の功績は大きい。

「父さまたちもそうでしょ。救世主なんてのに残られたら、今後の政がやりにくくて仕方なかったんじゃない?」

 突然話を振られて、儀式を検分するために臨席していた国王は顔を顰めた。

 娘であるアライアが言うように、救世主という存在は国を纏める人間からすれば邪魔でしかない。

 救世主、魔王を討伐した勇者というのは国民に絶大な人気がある。

 彼を王にすべきだ、という流れになるのは目に見えていた。

 勇者が優れた統治者なら、その座を譲ることもそう悪い話ではなかっただろうが、勇者は異世界においてはただの平民であり、帝王学も学んでいない。玉座に就いたところで良い王となるとは思えなかった。

 王が確りせねば国が乱れる。

 折角魔王を退けても、政治がぐらついては意味がない。

 一応、勇者が残留を望んだならアライアの夫として王族と縁を結び、どこか過ごし易い領地を与えるつもりだった。言い換えれば、飼い殺しにする気だった。それは悪意からではない。お互いのため、最良の選択だった。

 地方で半隠居生活をしていようと勇者の持つ魔王を倒す力が消えるわけではない。勇者が残っていれば、王は常に謀反に怯えていなくてはならなかった。

「それでも、彼は世界を寄越せと言えるだけのことをしたのだ」

「本音は?」

「帰ってくれてほっとしてい……なにを言わせる」

 娘の言葉に思わず口を滑らせた王に周囲から笑い声が起きる。

 魔王はいなくなり、魔王を討伐した勇者もいなくなった。

 世界は平和になり、面倒事も消えた。

 めでたしめでたし………………のはずだった。


 最初に気付いた者は思わず卒倒した。

 その卒倒した者の隣の者は何事かと視線を移して、ひい、と短い悲鳴を上げた。

 ざわめきが起こる。

 一体何事か、と振り向いたアライアたちの顔が強張った。

「え、あれ、なんで?」

「送還失敗みたいだな。広間から外に飛ばされただけだった」

 歩いて戻って来た勇者はにこにこしていた。

「そ、そうなんだ。でも、怪我もなく、その、良かったね」

 アライアの声はどうしても上ずってしまっていた。

 今の話、聞かれていたら非常に不味い。

 そして、これまで見たこともない笑みを浮かべていることから考えれば、間違いなく聞かれていた。

 ラミスもシズリも引き攣った笑顔でかつて生死を共にした戦友を迎える。

「全力で行けばいけるかな」

「やめときなさい、無理だから」

 ラミスが声に出さずにアライアに目線で問い掛けると、王女も目だけで答えた。

 3人が束になって掛かっても、いや、この広間にいる全員で掛かっても勇者には勝てない。

 彼は人類を滅ぼしかけた魔王すら圧倒したのだ。

「戻れないみたいだから、こっちで世話になることになると思うけど、構いませんよね、王様?」

 元の世界に戻れるはずだった方法は今さっき失敗した。

 もう一度やったからと成功するとも思えない。それに、何度も連続で試せるものではないと説明も受けていた。

 なら、この世界で生きて行く覚悟を決めるしかなかった。

 そういう可能性もあるのは前もって聞いていたから、勇者は慌てずにいられた。

 なにより、さっき耳に入った話のせいで儀式失敗の落胆もどこかへ行ってしまっている。

「無論だ。かねてからの約束通りの報償を与えよう」

「それじゃお言葉に甘えて、気候のいい領地と優秀な代官をお願いします」

「分かった。君が余生をのんびり暮らせるよう取り計らおう」

 勇者には政治に口を出すつもりなど最初からないし、自分が人の上に立てるとも思っていなかった。

 だから、不労所得が確保される立場が約束されるならそれだけで十分……だった。

「後1つ」

「なんだ、なんなりと申してみよ。世界を救ったそなたの願いなら、可能な限り叶えよう」

 王の言葉に勇者はビシッと3人の元仲間たちを指差す。

「そこの3人の身柄を貰い受けたい」

「ああ、それは娶ると……」

「身柄を貰い受けたい」

 3人娘の顔から血の気が引く。

 妻にしたいというのではなく、わざわざ「身柄を貰い受けたい」と強調している。

 それは娶るのではなく、生殺与奪の権利を寄越せ、と言っているようなものだ。

 王は2秒ほど沈黙してから、

「うむ、分かった。他の王たちも否やはないだろう。その3人は好きにすると良い」

 勇者を敵に回すことを思えば3人の娘の身柄は安いもの。

 それが自分の娘であっても、国民の身の安全とは比べるべくもない。

 即座に判断した王に3人娘が縋るような眼差しを向けたが王は気付かぬふりをした。

「感謝します」

 勇者の、正義の味方が浮かべてはいけない笑み。

 3人娘の絶望した表情。

 王を含めたその他の者たちは、それを見ないようにした。

まあ、あれです

わざわざ他人の世界を命懸けで救おうとするお人好しですから

遠からず強かな3人の尻に敷かれることでしょう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まあ本音をむき出しにして喧嘩すれば善人同士なんだし仲直りできるでしょ
あーくそ、異世界転移タグあるしローファンタジーじゃないやんって思ってたら、ジャンル設定も含めて罠だったか でも全部異世界で話が完結してるしハイファンタジーだと思う
〉遠からず強かな3人の尻に敷かれることでしょう ええ~? ほんとでござるか~? まあ、でも本音で語り合える方が健全だし、軽口を叩けるほどには仲良しだったみたいだし、改めての関係構築にはちょうど良か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ