疎遠だった幼馴染みは、なぜか俺に近づいてきた
俺の名前は桐生春人。
平凡な高校二年生だ。勉強も運動も可もなく不可もなく、クラスでは存在感ゼロ。女子から特別に注目されることもなく、日常は淡々と過ぎていく。そんな俺の“特別”といえば――昔はよく遊んだ幼馴染が同じクラスにいることくらいだった。
椎名美月
家も近所で、放課後はよく一緒に遊んだ。小学校の頃は秘密基地を作ったり、花火大会や夏祭りに行ったり、何気ない日常が毎日楽しかった。でも中学に上がる頃には自然と疎遠になり、気づけば話すこともほとんどなくなった。今では、クラスでは人気者の“学校一の美少女”として存在感を放っている。
正直、俺の生活から完全に遠い存在だと思っていたのに――今日、突然彼女が俺に声をかけてきたのだ。
放課後の教室。ほとんどのクラスメイトは帰宅し、
静かになった教室で俺は放課後、誰もいない教室で
ノートを開く俺。
「……くそ、わかんねぇ」
背後から声がかかる。
「春人」
振り向くと、美月が立っていた。小学校の頃と同じ顔なのに、高校生らしい凛とした雰囲気をまとっている。
「……おう、美月? 久しぶりじゃん」
「うん。宿題、わかんないとこあるでしょ?」
自然に机に腰を下ろす彼女。距離が近く、シャンプーの香りが漂う。
「えっと……ああ、まあ、ちょっとだけ」
「じゃあ見せて」
淡々とノートを覗き込み、俺がミスをするのを待っているかのようだ。
「ここ、こうやればいいんだよ」
「あー、なるほど。ありがとな」
小学校の頃もよく教えてもらったことを思い出す。あの頃は無邪気に頼っていた。
美月はノートを閉じると立ち上がり、教室の出口へ。
「そうだ、春人」
立ち止まり、ささやく。
「また、昔みたいに頼ってくれていいんだよ」
耳元で囁く声は柔らかい。でも、“私以外はダメ”という圧を感じる。
こうして、疎遠だった幼馴染みとの再会が始まった。
俺の日常は少しずつ変わり始める――そんな予感だけが残った。