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SOS調査員【宇宙の虎】

悪夢の住む部屋

しいなここみ様主催、してはいけない企画への参加作品です。

 白い光に包まれたあと、幌橋が目を開けるとそこは夕暮れの教室だった。中央にはレクリエーションの舞台装置のように椅子が円形に並べられている。

 6脚の椅子には性別も年齢も異なる人間が座っている。それは幌橋が追っていた失踪者たちだった。


 最近になって人間が突然失踪する事件が起きていた。ただ失踪者は数日後全員が生還していた。衰弱して記憶の一部を失くしてはいたが。

 だがその後、マスコミが扇動して失踪者への差別や隔離せよとの声が大きくなる。彼らは記憶を失くしたことで精神を病んだり刹那的な生き方をするようになり、追い詰められた失踪者は実際に衝動的な殺人や無差別テロを引き起こすようになっていった。

 そして幌橋は調査の結果、失踪者が集められていたこの【部屋】の存在にたどりついたのだった。


 背広を着た男は冷や汗を浮かべている。コンビニの制服を着たバイトの女はうつろな目で虚空を見つめている。目をつぶって必死に何かを耐えている者、一心不乱にお経を唱えている者も。


 不意に教室のスピーカーからフォークダンスの音楽が流れ出す。それを聞いてジャージの小太りの男が座ったままぶるぶると震え出す。

「やめろ……やめてくれ! もう償ったじゃねぇか! 保科先生はただ女子が足りなかったから、オレと組んでくれただけで……それをあいつが……裸で保健室にオレを閉じ込めて……そのせいで先生にまで変態とか白い目で見られてオレは……だから轢き殺してやったんだよ! 何度も……そうだよ、死んで当然なんだよ、キクチの野郎はよぉ!」

 そう叫ぶと男は椅子に座ったままガクガクと痙攣する。目や口、鼻や耳からポンプで押し出したように血が噴き出した。

 そして男は血まみれのまま白い光に包まれて消えていく。……椅子は5脚になった。


「……そんなつもりじゃ、胡桃が義母のアレルギーだなんて知らなか……いいえ、知っていたわ(・・・・・・)! 鬱が甘えだなんて言うから仕返ししてやったのよ! ははっ、ざまあみろ!」


「手っ取り早く成果を出すためには仕方がなかった。ノルマが……いや、融資をせがむ小汚い社長の娘ごときが、俺様の温情・・を断って銀行の便所で首を吊ったせいで……」


 次々と【部屋】の情景は変わっていく。その中で失踪者は一人また一人と過去の罪をさらけ出し、血まみれになって元の世界へ戻っていく。ここは【黒歴史トラウマを思い出してはいけない部屋】なのだと幌橋は理解した。過去の罪をほじ繰り返された彼らは手榴弾と同じだ。安全ピンでもある黒歴史トラウマの記憶を消され、いつ何がトリガーになって感情が爆発するか分からない恐怖を抱えながら生きていくことになる。


 そして【部屋】は真っ白なだけの空間に変わった。他に誰もいないそこに幌橋だけが立っている。

「ここに一人でも留まっていれば、他の人間は呼び込めないはずだ。もう諦めるんだな」

『知っていたのか。だがすでに遅い。悪意・・のサンプルはもう十分に集まった』

「サンプルだと? お前は何者だ」

『私はこの星に派遣されたコンピュータ3628……サロニヤとでも呼んでくれたまえ』

「ふざけるな。人を弄ぶだけでなく殺し合いをさせ、何が目的だ」

『だからサンプルの採取と言っただろう。抜け殻となった人間のその後など知った事ではない』

「何だと!」

 『私の星の生命体は集合知を獲得した代わりに、戦いや争いというものを理解できなくなったのだ。しかしこのサンプルで学習すれば、ようやく我々も侵略を始められる』

「そんなことを許すと思うか。お前を破壊して奪われた人たちの記憶を取り戻させてもらうぞ!」


 しかし銃を奪われた幌橋の手足に、サロニヤの操る無数のケーブルが蛇のよう巻き付く!

「くっ、しまった!」

『ふん、口ほどににもない。ついでにキサマの過去も見せてもらおうか。【宇宙の虎】の黒歴史トラウマとはどんなもの、な、何だこれは!』

 幌橋の感情に同調して【部屋】の作り出す風景が目まぐるしく変化する。砂漠、極寒、深海、火山……そして宇宙の闇。その中でサロニヤの見た幌橋は……

『こ、こんな場所でキサマはいったい何をして……それでいて何故、今も平気で生きていられるのだァァァ!』

「さてな。SOS(宇宙安全機構)の調査員は伊達じゃ務まらんということだ」

 幌橋が素っ気なく口にする。

『それにキサマ……【ナインライブズ】とは

 その問いを遮って、幌橋の秘密兵器、光線砲シュタイナーがサロニヤのコアを撃ち抜いた。


 夕闇の始まりを、10年来となる軽自動車を走らせる幌橋の携帯に、アンナからのメールが届いた。失踪者だった友達の記憶が戻ったらしい。

「まさかと思うけど一応言っとくね。サンキュー、P」

 再婚した母を気遣って、送る前に慌てて消したのだろう。年頃の娘の黒歴史トラウマにはなりたくないなどと思いつつ、いやもう遅いだろうと自嘲して幌橋は探偵事務所に急いだ。

 




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― 新着の感想 ―
∀・)硬派に綴った感じ。でも、どことなくシュールさも滲ませていてた芸術性がある。
かっけー! 最初はフルーツバスケットでもしているのかと思ったが!
なんかかっこいい(*´艸`*)
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