№_17_ふりがな版
可惜身命
「人殺しな…」
足を痛めて遅れて来た剛が、柱の陰で呟く。
「何が、いけないの?」
毅然とした表情で、聞き返す。
「ひ、人殺しだよ!い、命を奪うってこと…」
「人間じゃなくて、化物の命だよ。悪いことかな?」
「それは…そうだけど…」
「一つの命より、大勢の命を救う。当たり前でしょ?」
悠の自信に、全員が沈黙する。
「確かに。私達の仕事は、人の死に、立ち会うこともあります…ですが」
「悪餓を祓い、命を救う。それが、祓い屋の”死命”ですから」
何も言い返せない百は、気まずい表情で下を向く。
「こら!お客様を、困らせるな」
社務所の奥から出て来た鉄男が、百の頭を叩く。
「痛い…親父に殴られた。虐待だ!」
「くだらん事を言ってないで、早く、荷造りを終わらせんか」
顔で怒る百を、社務所奥に投げ飛ばす。
「すみませんね。こちらが、迎えをお願いしたのに…」
「そうですよ!高見社長の命令だから仕方なく…」
頭を下げる緒乃葉に、頭を殴られた、悠。
「なんで…」
「悠。悪餓祓いのお札を、我々に卸れているのは、この御方ですよ!」
「いえいえ。お客様ですから」
謙遜する鉄男は、手を差し伸べ、緒乃葉の頭を上げさせる。
「失礼致しました。矢真白様」
「良いんですよ。これから娘を預ける事務所が、どんな者達か、一目見てみたかっただけですから」
疑いの視線で、威圧する、鉄男。
鉄男の視線に身構えながらも、悠は、疑問をぶつける。
「は、祓い屋なんて危険な仕事に、娘を就かせて良いんですか」
大きなため息を吐き、御守りを整理し始める。
「神社は、生まれつき霊が見える血族でね…」
「嫌でも、生活の為に、お祓いの術を身につける。そういう家系なんだよ」
鉄男の守護霊の金槌が、悠の喉元に置かれる。
「・・・」
顎を上げ、固唾を呑む、悠。
「可愛い子には旅をさせよって、言うからな!」
鉄男が、表情を笑顔に変わった事で、
金槌を持つ守護霊の腕が、下げられる。
「危険な仕事だからこそ、力を付ける」
真剣な表情に変えた鉄男が、悠の肩に手を置く。
「”救う”と粋がる前に、実力を付けろ…言葉だけでは、何にもならん」
「うん…知ってる」
鉄男と目線を合わせ、平然とした態度で答える、悠。
真面目な空気に耐え切れなかった剛が、横槍を入れる。
「お前の根拠のない自信だけは、毎回、感服するよ」
「そう?ありがとう」
「褒めてねぇよ?」
「お待たせ…」
荷造りを終えた百が、スーツケースを持ち上げ、玄関から出て来た。
「お前な~そのスーツケースは、転がして運ぶんだよ」
娘の世間知らずに、呆れる父。
「そっか!」
鉄男の言葉通り、スーツケースを投げ捨て、転がそうとする、百。
「危ない!」
「え⁉」
スーツケースが、着地の衝撃で壊れない様に、剛を投げ飛ばした、悠。
「ぐは!」
「ふー。よかった~」
スーツケースの下敷きになった剛が呟く。
「物を大切にする優しさは、あるんだよな」
「喧嘩うってるの?」
「いや、褒めただろ!」




