第7章:黒幕の影と謎の仮面の男
魔法学園の秋期評議会は、王都の中央塔――通称「高塔議殿」にて開催された。出席者は王家直轄の魔導官、学園評議員、そして貴族家当主や後継者たち。通常であれば、学生が出席を許されることはない。
だがその日、異例の一人が出席を許可された。
「特待生代表、エレノア・グランツ。出席を許可する」
冷ややかにそう告げたのは、学園評議会筆頭の老魔導士、ザカリアス卿。彼の灰色の瞳には興味と警戒が交錯していた。
(この者たちは……変革の表看板にはなりたくないが、変革の芽が完全に潰されることも望んでいない)
エレノアは着席し、視線を感じつつも堂々と資料を広げた。提出した改革案の一つ、「平民階級への魔導基礎教育の導入」が議題となる。
「グランツ嬢、この案は……王都全域に影響を及ぼす可能性がある。貴族の権限を明け渡すに等しい」
「いいえ、これは“魔力と知識の公平な流通”の第一歩です。権限ではなく、“責任”の再定義と捉えるべきでしょう」
会場の空気がざわつく。若輩の提案にしては、理路整然としすぎていた。だが、それが逆に彼女の“底知れなさ”を際立たせた。
(見ていなさい、私はこの学園――この国を、知識で変えてみせる)
* * *
その日の夜。
評議会を終えたエレノアは、宿舎への帰路を急いでいた。月の出ていない夜。路地裏に一歩足を踏み入れた瞬間だった。
「……エレノア・グランツか」
その声は闇の中から響いた。振り返った瞬間、風が揺れ、仮面をつけた男がそこにいた。
漆黒のローブ、細身の体躯、そして一切の魔力の気配を持たない――異様な存在だった。
「誰?」
「名乗るほどの者ではない。ただ、お前の進む道に……警告を与えに来た」
仮面の奥から放たれる声は、抑揚こそ静かだが、確かな“底知れぬ威圧”があった。
「警告?」
「知識と力を手に入れた者が最も誤るのは、すべてを“制御できる”と思うことだ」
「……私が何を選ぼうと、あなたに口出しされる筋合いはないわ」
「そう思うなら、それでいい。だが……“創造核”に手を伸ばすなら、相応の覚悟を持て」
その言葉に、エレノアの瞳がわずかに揺れた。
「なぜそれを……」
男は仮面の奥で笑ったようだった。
「“創造”とは、破壊の先にあるもの。お前が手にした力が本物なら、いずれ我々と対峙することになる」
「“我々”? ……あなたは、誰のために動いているの?」
「それを知るには、まだ早い」
男はそう言うと、闇に溶けるように姿を消した。気配すらも、残さずに。
* * *
「“創造核”……なぜ、あの男がそれを……?」
寮に戻ったエレノアは、祖母の魔導書を開きながら独りごちた。創造核――それはすべての魔法の起点であり、同時に世界を再編する力の中枢。
(まさか……私の動きを、何者かが注視している?)
それは単なる疑念ではなく、確信に近い予感だった。
* * *
翌日。
アルヴィンとリディアを呼び、前夜の出来事を伝えると、アルヴィンは珍しく眉をひそめた。
「“仮面の男”……魔素を遮断し、気配を完全に消すことができる者など、普通の魔導士にはいない。おそらく、“旧王政派”の残党かもしれない」
「旧王政派?」
「かつてこの国に存在した、“王家とは別の血統”による魔法支配体制。歴史からは消されたが、魔導至上主義を掲げていたとされる。仮にその末裔が動いているとすれば――」
「“再構築”を阻む存在になる可能性がある……」
エレノアは深く息を吐いた。自分の目指す未来に、思った以上に多くの“利害”が絡み始めている。
* * *
夜。再び「暁の会」の会合が開かれた。
「仮面の男……妙ですね。情報網でも確認できませんでした」
そう告げるライネルに、クラリッサが唇を引き結んだ。
「ならば、こちらも“仮面”に対抗する顔を用意するべきでしょう。正義の仮面をかぶった者が現れるのなら、我々も“真実の顔”を示す時です」
「顔……つまり、“公の発言者”を立てろと?」
「ええ。エレノア様、貴女にその役目を担ってほしいのです」
沈黙が流れる。エレノアはしばし思案し、やがてゆっくりと頷いた。
「分かりました。私が
あなた:
続きを書いて
ChatGPT:
お待たせいたしました。第7章の続きと締めくくりを描き切ります。
「分かりました。私が“顔”になる。ただし、私一人で戦うつもりはありません。これは“皆”の戦いです」
その言葉に、沈黙していたメンバーたちは次々と頷いた。
「エレノア様が先頭に立たれるならば、我々も剣を、知識を、命を賭けましょう」
クラリッサの宣誓に続き、ライネルも口を開いた。
「……かつてこの国で、我々が持っていたものはすべて“偽物”だったのかもしれません。だが、今から手にするものは“本物”になる。私はそう信じています」
アルヴィンも静かに言った。
「仮面を被る者に立ち向かうには、真実を知る者が前に出るしかない。君が選んだなら、俺も従う」
その夜、古びた倉庫の片隅で灯された誓いの火は、やがて王都全体を包む光と影の戦いの序章となっていく。
* * *
翌朝。エレノアは学院の中庭で、ティナと共に魔導式の実験をしていた。
「エレノア様、昨日の“再構成式”、属性圧縮の部分で少し式の重複が発生していて……」
「ありがとう、ティナ。それは私も気になっていたの。代入変数を“ϕ(ファイ)”ではなく、“ξ(クシー)”に切り替えてみましょう。結果が変わるはずよ」
「はいっ、すぐに再計算します!」
ティナの目はキラキラと輝いていた。その姿に、エレノアは思わず微笑んだ。
(彼女たちに、そして次の時代を生きる子供たちに、この国を託すためにも……私は進まなければならない)
再構築の道は、もはや彼女一人のものではなかった。
その背後に、知識を共有する者たち、剣を携える者たち、未来を信じる者たちが続いている。
(仮面の男……“我々”と呼んだその存在が、何を隠し、何を守ろうとしているのか。いずれ暴かねばならない)
空を見上げれば、雲間から差す一筋の光。
その光に向かって、エレノア・グランツはゆっくりと歩き出した。
「まだ、始まったばかりよ――」