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第6章:追放された貴族たちの集い

秋の風が涼しさを増し、王都に赤と黄の葉が舞う季節。王立魔法学園の一角にある古い倉庫棟――かつては教材置き場として使われていた場所に、ひっそりと人影が集まっていた。

エレノア・グランツがそこを訪れたのは、アルヴィン・クローデルから一本の手紙を受け取った夜のことだった。

『再構築の鍵は、失われた者たちが持っている。旧倉庫にて待つ――A.C』

指定された時間、彼女が現れると、そこにはすでに数名の人間がいた。平民の服を着た青年、騎士団風の出で立ちの女性、そして――見覚えのある顔。

「エレノア様……まさか、貴女が来てくださるとは」

静かに立ち上がったその青年は、かつてグランツ家の分家筋に連なる貴族だった。名をライネル・グランツ。五年前、不正の冤罪を被り爵位を剥奪された男だ。

「ライネル……あなた、生きていたのね」

「かろうじて、ですがね。今は“元”貴族として、地下の情報組織に身を置いています」

他の者たちも、王家や有力貴族によって爵位や地位を奪われた“追放者”たちだった。その目は皆、過去の栄光ではなく、未来への渇望と怒りを湛えている。

「ここに集まったのは、皆“理不尽”にこの国から切り捨てられた者たちです」

そう言ったのは、女性騎士――クラリッサ・フェルディナント。元近衛騎士団の副団長で、第二王子派閥に忠誠を誓ったとして処分された人物だった。

「我々は戦う力を持ちながら、行き場を失っている。けれど……もしあなたがその“旗”となるなら――」

「“旗”?」

「あなたの知識、力、影響力――それがあれば、この国に風穴を開けることができる」

エレノアは黙して皆を見渡した。かつては上に立っていた者たち。その多くは挫折し、堕ち、それでも再び立ち上がろうとしている。

(私一人ではできない。けれど、彼らとなら……)

「分かりました。私がその“旗”となりましょう。ただし――」

彼女は一歩前へと出た。

「これは復讐のためではなく、再構築のためです。怒りだけでは、革命は成り立たない」

静寂の中、ライネルがにやりと笑った。

「なるほど。それが貴女らしい」

その瞬間、倉庫の中に新たな灯が灯ったように、誰もが顔を上げた。

* * *

数日後、エレノアはこの集団を「暁の会」と名付けた。名の通り、夜明けをもたらす者たちとして。

彼らは王都の地下に情報網を築き、上流貴族の汚職や魔法研究の改竄などの証拠を掴み始めた。

「この書類……第八魔導研究室が、“平民への魔力制限薬”を試験的に流通させていたと?」

「はい。正規ルートではなく、貴族の私兵を使って平民街でテストを……」

報告を受けたエレノアは、資料を読みながら唇を噛んだ。

(こんなものが……まさか、本当に魔力を封じる薬が……)

「アルヴィン。この情報、学園内部にも広められる?」

「可能だ。ただし、確実な証拠と“後ろ盾”が必要だな」

「後ろ盾は、私が用意するわ」

静かに立ち上がる彼女の目は、かつてのような貴族の誇りではなく、民を見据える者の覚悟に満ちていた。

* * *

その夜、エレノアは自室で祖母の遺した魔導書を再び開いていた。

(“再構成”とは、ただ壊すことではない。価値あるものを選び取り、もう一度意味を与えること)

彼女の心は静かだった。怒りも悲しみも、すでに燃え尽きていた。ただ残っていたのは、変革への意志。

(私は過去に囚われていた。けれど、もう違う)

紅茶を持って入ってきたリディアが、そっと問いかけた。

「……エレノア様。もしかして……戦う覚悟を?」

「ええ。でも剣ではなく、“知識”と“言葉”でね」

そして、机の上の書類に目を落とした。

「次は、魔法学園評議会に“改革案”を提出するわ」

「えっ、それって……敵の本拠地に自ら乗り込むようなものでは……?」

「だからこそよ。最初の一手は、正々堂々と放つべきだもの」

月光に照らされたその横顔は、静かに燃える炎のようだった。

(再構築は始まった。この手で、未来を創る)


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