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第10章:王宮に潜む腐敗

第二王子ジュリアン・ラグランジェとの密約が結ばれてから、エレノアの動きは加速した。

彼の支援により、学園内部における彼女の立場はさらに強固なものとなり、公開講義は週ごとに拡大、受講希望者も飛躍的に増えていった。

だがそれと同時に、王都の空気には目に見えぬ“歪み”が広がりつつあった。

「王宮が不穏です。急な人事異動が相次いでいます。特に、情報局と宮廷魔導師団の人員が再編されているとのこと」

ライネルからの報告に、エレノアは顎に手を当てた。

「……私たちの動きが、本格的に“目障り”になってきた証拠ね」

「それだけではありません。殿下の動向も、第一王子派の監視下に置かれている様子です」

かつてエレノアを断罪した男、第一王子アレクシス。表向きは華やかで民に人気の高い彼だが、その背後に控える重鎮貴族たちの陰は、かねてより深かった。

(やはり……この国の腐敗は、王家の中心にある)

* * *

その週末、エレノアは極秘裏に第二王子と王宮外苑にて会合を行った。宮廷内に仕掛けられた監視網を掻い潜るため、場所は王家直轄の薬草園。ここは本来、外部の者が立ち入れない場所だが、ジュリアンの権限によって特別に通された。

「来てくれて感謝する。だが、ここはあくまで“仮初めの聖域”だ。長居はできない」

「承知しています。私から報告を一つ。魔導薬物の流通元に、王宮の財務部門が関与している可能性が高いと判明しました」

「……それは確証か?」

「間接的なものです。ただ、追えば必ず直結するはず」

ジュリアンは庭のベンチに腰掛け、沈思黙考した。

「アレクシス兄上は、国民に“美しい王家”の象徴を演じさせられている。その背後で、権力者たちが利権と魔力を貪っている……そんな構図を、誰が信じられるだろうか?」

「だからこそ、証拠が要るのです。逃げられぬほど明確で、公的な証拠を」

その時、薬草園の奥から足音が聞こえた。現れたのは、ジュリアンの側近であり、王家直属の魔導士――カイ・リューベン。

「殿下。時間です。巡察隊が近くを回っています」

「わかった。エレノア嬢、ここで話した内容は私の信任に置く。これからは共同戦線だ。だが――」

ジュリアンの声がわずかに低くなる。

「“王宮の腐敗”に手を入れるということは、王家を敵に回す覚悟が要る。それでも進むのか?」

エレノアは迷わず頷いた。

「その覚悟を持たなければ、“ざまぁ”も“改革”もただの妄想です」

その言葉に、カイがかすかに目を見張った。そしてジュリアンは小さく笑った。

「やはり、君は面白い。では次は、証拠を手に入れよう。王宮地下、財務保管庫の記録だ」

* * *

数日後、エレノアは暁の会の仲間とともに、王宮地下への潜入作戦を決行した。

「地下通路は、旧王政時代の逃走路を流用します。古文書の地図によれば、貯水路から回り込めるはずです」

ライネルの指示のもと、クラリッサが先頭に立ち、エレノアとティナ、数名の魔導士たちが続いた。

湿気のある薄暗い石造りの通路を進みながら、エレノアの心には緊張と覚悟が交錯していた。

(もし見つかれば、私たちは国家反逆罪)

それでも、足を止めることはなかった。

* * *

やがて一行は、目指す財務保管庫の前に到達した。魔力で封印された扉。通常の解錠では不可能。

「ティナ、お願い」

「はいっ……展開します、“解錠魔導式・変数Ⅲ型”!」

ティナが手をかざすと、複雑な魔法陣が浮かび、扉の封印が一つずつ解除されていく。

(彼女の成長も、確かな“革命の証”ね)

ついに、扉が静かに開いた。

中には、数十冊にも及ぶ記録帳と、魔導薬の試験成績、そして貴族間の賄賂受け渡しを示す“帳簿”が眠っていた。

「……これで、すべてが明るみに出せる」

手に取ったその一冊が、やがて王国の“真実”を照らす火種となるのだった。

* * *

その夜。

エレノアは窓辺に立ち、月を見上げながら独白した。

「ここまで来たのね、お祖母様。けれど、これはまだ序章。真にこの国を変えるためには……さらに深い闇と向き合わなければならない」

その声は夜風に乗り、静かに消えていった。

だがその眼差しは、確かに“王の玉座”を見据えていた。


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