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宇宙の亡霊 <Birth of the Space Ghost>  作者: 雪道風岬
バックストーリー
2/21

バックストーリー後半:2250年12月17日に至るまで

大苦戦を超えた大苦戦。大失敗となるスタート。月の主力部隊も大苦戦———いや、こちらは苦戦どころの話ではなかった。


何せ宇宙連合は何も知らなかった。月は宇宙における"拠点"として地球にとって重要であると。だから、講和のために陥落させようと。

月にどんな施設が存在するかなど考えもせず、ただ単純に重要だから落としておこうと。それしか考えていなかったのである。


———そして、地球側が月に構えていた施設はそんな彼らの楽観的な想定を打ち砕く代物だった。何せ地球連合は月表面に存在する単純な工場を身の隠れにして、月の内部に極秘の地下施設を作っていのだから。

その地下施設で何が行われていたかといえば、それは()()()()()()()()だった。


あろうことか、地球連合はそこを新型ロボティック・アーマー等の軍事兵器の開発・試験場にしていたのである。各国から集められた選りすぐりの研究者やパイロットを集めて日々軍事研究に邁進していたのだ。


最新鋭の機体に、最優秀と呼んでも過言ではないパイロットたちが集まった秘密基地。

……プラントですらあのザマだったのに、そんな所を襲撃したらどうなるかなんて目に見えている。



偵察目的で宇宙連合主力部隊から先発したロボティック・アーマー50機は月面の対空砲火によって悉く大破。生き残った機体も10機に満たず、這う這うの体で母艦に逃げ帰る様だった。

それを受けて宇宙連合は艦隊を三つに分け、正面、左右からの三方面同時攻撃を月に仕掛けようとするが、それを阻止するために地球連合の新型戦艦1機が出撃。宇宙連合の艦隊新編成の予断を許さず、『対艦砲』4門を一斉射撃した。


対艦砲———それは艦艇を貫通するほどの超出力ビーム兵器の総称である。

その威力は絶大だが、あまりにも膨大な熱量のためにエネルギーチャージの段階で熱源レーダー等によってその存在がバレてしまう。拠点やRAの密集地帯に放てば非常に有効的だが、戦艦等の動く目標物を狙い打つことはほぼ不可能。レーダすら積んでいないボロ船か、あまりにも至近距離か、もしくはAIが自動で導き出してくれる回避行動すら取れない馬鹿でもない限り当たりはしない。


ここで放たれた4連撃もあくまで牽制のつもりだった。


……しかし、対する宇宙連合艦隊は「三方面同時攻撃のために艦隊を新編成する」と言う無茶振りをされて軽いパニック状態に陥っていた。何せ彼らは100を超えるスペースコロニーから構成された烏合の艦隊であり、しかもその殆どが演習を除いて実戦経験がないのだ。

艦隊新編成の命令であたふたしているところに熱源反応の報告が続く状況。艦隊どころか艦内ですら指揮系統は混乱し、艦隊はまともな行動が取れなくなってしまった。


———そして。その結果彼らは、回避しなければならないその攻撃を避けられなかったのだ。



超出力ビーム4本によって180隻中16隻が撃沈。加えて回避運動で衝突事故が発生し、10隻が小破、1隻が大破。こうなっては指揮系統は滅茶苦茶になって作戦どころではない。ただでさえ悲惨だった艦隊が地獄絵図と化して大混乱に陥った。

攻撃した地球連合側さえ、牽制射撃で大戦果を上げてしまったことに驚いて目の前の現実を信じられなかった程である。


しかし悲劇はここで終わらない。地球連合の戦艦から新型の『可変型』ロボティック・アーマー10機が出撃し、混乱している宇宙連合艦隊を襲ったのである。



可変型ロボティック・アーマー。———それは名称の通り変形するRAのことである。

用途によって変形の仕方は様々ではあるが、大抵は戦闘機と人型の形態を切り替えることにより戦闘機の直線的な超加速と人型ロボットの柔軟な動きを切り替えて使う設計になっている。

戦場を駆け回って敵を翻弄するような一騎当千のエース機に向いている機体だ。しかし、可変構造に伴う機体の脆弱性や器用貧乏な面もあるため一概に良いとは言えない。


……そんな可変機だが、混乱に陥っている艦隊相手にこの機体はあまりにも効果的だった。


レーダーに敵影が映っていると言うのに、艦長は旗艦とばかり連絡を取って対応が出来ない。

艦隊がようやく迎撃の準備を始めたのは、ロボティック・アーム10機の飽和攻撃によって先頭の戦艦が撃沈されたことがきっかけだった。


可変機10機は戦闘区域突入後にそれぞれ2機でペアを組むと、5組に別れて散開。手当たり次第に艦艇を攻撃し始めた。

2機の高速移動する可変機が纏わりつく蠅のように艦艇の周りを飛び回る。艦艇に備え付けられたビーム砲、マシンガンが対空砲火を吹くが全く撃ち落とせない。視界に捉えた所でその高速な動きは到底追いきれず、一瞬で死角に回り込まれて攻撃を受ける。その度に館内にはズシンと鈍い衝撃が走る。その繰り返しだ。


巨大な艦艇がRA程度のビーム砲一撃で沈むようなことは流石にない。しかしその一撃によってビーム・コーティングが剥がれ、さらに至近距離からも強烈な追撃を受けるようなことがあれば、ビームを物理的な障壁で受けることになり貫かれる可能性も大いに存在する。

それでも巨大な艦艇がたった数発で沈むことは少ないが、それがジェネレーター等のバイタルパートに直撃すればその限りではない。



そして、そんな艦艇の弱点を可変機たちはよく理解していたのだ。


翻弄され続けた宇宙連合側は恐らく最後まで気がつけなかっただろうが、襲って来る可変機2機のペア。これらには特徴的な共通点があった。それはまず、彼らの”武装”である。

どちらの可変機も戦艦クラスの大口径ビーム砲を携えているのだが、そこから放たれるビームの種類が実は違うのだ。一機は細い閃光を大量に発射する()()()()()()。そしてもう一機が、見た目の通りの戦艦の如き半径・出力を備え持つ一本筋の()()()()()()を放つようになっている。

再現性がなければ個人の趣味で済む話だが、全てのペアがそんな共通の武装をしていたのである。


そして、そのような武装の共通点に気が付けば彼らの ”攻撃の順番” にも共通点があるとわかるだろう。

艦艇に纏わりつく彼らは、まず一機が拡散型のビームを艦艇へ打ち込む。続いて、間髪入れずにもう一機が全く同じ箇所に強烈なビーム砲を叩き込んでいるのだ。彼らは艦艇の至近距離を纏わりつくように飛び回りながら、前述したコンビ攻撃を複数箇所に連続で仕掛けているのである。


これはビームコーティングの弱点をついた戦略である。一機が拡散ビームによって敵のビーム・コーティングを広く剥がすことに専念し、もう一機が追撃の一撃を叩き込んで装甲を貫く大打撃を与える。

これこそ、2機5組の可変機による艦艇墜としの秘訣である。


艦艇を効率的に沈めるには、各部・後部ジェネレータ、エンジン、ブリッジ等に狙いを定めてその全てを破壊するような攻撃を行う必要がある。

加えて、音速で飛び回る可変機、リアルタイムで状況が変化する戦場、対空砲火を避けるためには敵砲台の動きを把握する必要がある。音速で飛び回る機体は障害物に衝突すれば大破を免れず、戦闘によって発生したデブリにも最大の注意を払う必要があるだろう。


そんな環境下で曲芸師によるアクロバットの如き連携を成立させる。これこそが、月の秘密基地に立ち入りを許されたエースパイロットの実力なのだ。


宇宙連合艦隊が迎撃のためにRAを発進させるまでの10分足らず。その僅かな時間に、一方的な蹂躙によって艦艇32隻もが撃沈されたのだった。


しかし、RAを発進させたところで形勢が逆転したのかと言えばそうでもない。量産機同士ですら性能に差があったのに、それが最新型のエース機相手となれば性能の差は恐ろしい程に開いている。そして何より、宇宙連合と地球連合の間にはトランス・システムと言う致命的な違いがあるのだ。

しかも宇宙連合側のパイロットは、 ”母艦の防衛” と言うトランス・システムが最も得意とする”近接戦闘” を強いられるのだから勝ち目なんてどこにもないのである。


RAが果たせたのは時間稼ぎ程度だろう。囮や小賢しい障害物として母艦が撃沈されるまでの時間を多少引き伸ばすことは出来たが、RA同士の戦いのみを切り抜けばまるで勝負になっていない。

可変機による予測不能な機動とトランス・システムの柔軟な動きに翻弄されて相手を補足することすらままならず、何とか射線に捉えたところで母艦や僚機が射線上に入って攻撃が出来ない。動きが止まれば拡散ビームの雨が降り注ぎ、ビーム・コーティングの禿げたコクピットにトドメの一撃が打ち込まれる。

母艦の方も味方機体を撃ち落とさない様に対空砲火を遠慮し、その結果可変機達にとっては寧ろ動きやすい空間が生まれる。本当に、撃沈される時間が引き伸ばされるだけの最悪の形となったのである。


戦いから30分が経過。可変機群によって艦艇58隻が撃沈され、対艦砲による撃沈数も含めて主力部隊は戦力の3分の1以上を失う大打撃を受けていた。大破・撃沈されたRAも数知れず、対する可変機は擦り傷一つ負っていなかった。


そして、戦いはさらに宇宙連合不利の局面へと突き進む。可変機による時間稼ぎのお陰で月に駐屯していた地球連合の警備部隊が出撃準備を完了。艦艇20隻、ロボティック・アーマー400機からなる総戦力を宇宙連合艦隊へと差し向けたのである。

バトンタッチするように可変機と新型戦艦は撤退して行ったが、宇宙連合は混乱する残存戦力をまとめて今度は艦隊戦を行うことになった。


先遣隊の20隻が3時間掛けてRA30機を落とせなかったのだから、さらに規模の大きい艦隊戦は必然的にそれよりも長引く。

基本性能の差を数でカバーしても2戦力の実力は拮抗。戦艦がバンバンと落とされるような異常事態こそ過ぎ去ったものの、ジワジワと戦力を削り合う泥仕合となった。


開戦から4時間近くが経過し、主力部隊は合計91隻、月警備隊は13隻の艦艇が撃沈。宇宙に散ったロボティック・アーマーは両者合わせて1000機を超えた。

当初は拮抗していた様に思われた実力だったが、数の優位により段々と宇宙連合優勢へと変わって行った。

戦線は月へと近づき、このまま押し切れる———と思った矢先。索敵艦が新しい敵影の発見を告げた。


———そしてそれは、終焉の訪れと同義だった。新たなる参戦者は地球の方面からやって来たのである。


———そう、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

総勢300隻からなる地球連合艦隊は消耗していた宇宙連合先遣隊を轢き潰すかの如く殲滅し、敵主力艦隊へと前進。月の戦力と挟み撃ちすることに成功したのだ。


そして、ここに雌雄は決したのである。


宇宙連合は月と衛星軌道を制圧してそれをダシに地球と交渉を行うという主目的を完全に果たせなくなったことを認識。撤退を余儀なくされた。

艦隊旗艦であり宇宙連合の枢軸でもあるスペースコロニー『ホルス国』を中心として軍事力の高いコロニーから優先的に撤退を開始。その反面、国力が低い、地球に近い立地などの立場の弱いコロニーが半強制的に殿を務めさせられた。


地球連合主力艦隊の到着に合わせて月からは可変機隊が再発進。撤退する宇宙連合艦隊に追い討ちを掛け、さらなる損害を与えた。それに伴って殿の艦艇は撤退行動すら許されず、時間稼ぎのために死ぬことを前提に孤立奮戦することを要求されたのである。

その結果殿は全滅。一部のコロニーは所有する艦艇の大半を失い、国力を大幅に低減させることになった。


地球連合艦隊は殿こそ全滅まで追い込んだものの、逃げ帰った艦隊を追撃することはなかった。

かくして、2250年1月20日。宇宙大戦の開幕を告げる大規模戦闘は戦闘を仕掛けた側である宇宙連合の大敗北で幕を閉じたのである。



宇宙連合艦隊率いる200隻の艦艇はその半数以上が撃沈され、本国の残存戦力を含めた全戦力の1/3近くが失われた。加えて翌日には地球に近い立地にあるコロニーの大半が降伏の意を示し、1ヶ月も経てば宇宙連合……もとい『ホルス国』に与するコロニーの数は半分近くに減ってしまった。

地球側はこうなることを見越しており、そのため総力戦による短期決戦は避ける動きを見せていた。何せ、降伏したコロニーを足がかりに宇宙の勢力圏を伸ばせば戦闘を起こさずとも相手は勝手に降伏してくるのだ。資源や人員を宇宙に散らす艦隊決戦など無駄の極みである。


戦争が長引けば長引くほど資源に余裕のある地球側が有利になるのは明確だ。自軍の犠牲をとことん避け、時を待つ。それは、地球と言う ”強者” 故の余裕の表れだった。



しかし———大敗を喫した宇宙連合も、決して愚かではなかった。



彼らが真っ先に目をつけたのがトランス・システムだった。地球連合のRAが見せたあまりにも生物的な動きは、すぐさま何らかの新しい操縦方法によるものであると看破されたのだ。

やがて地球製のロボティック・アーマーを鹵獲することに成功すると、そのカラクリは瞬く間に解明されることになる。それはさながら、第二次世界大戦時に米軍が零戦の鹵獲に成功し、その仕組みを解き明かした『アクタン・ゼロ』に例えられるだろう。


宇宙連合でも、トランス・システム———もとい人の意識を機械で受け取る技術が全く研究されていない訳ではなかった。それを兵器に転用すると言う発想と、コクピットの解析により得られた知見がまさに最後のピースを嵌めたのである。


鹵獲から1ヶ月も経たない内にトランス・システムのプロトタイプが完成。その実用性が示されると、すぐさま既存の機体がトランス・システムへと転換されて行った。

しかし、トランス・システムの高度な構造やそれ専用のパイロットスーツを増産するには資金・資源があまりにも必要になる。加えて、トランス・システムを用いたところで、それは両者の ”技術が” 対等になっただけだ。

機体性能の差は相変わらずであり、国力の差も最早覆せないほどに広がってしまった。既存の機体を転換した所で根本的な解決には至っていないのだ。



だからこそ、宇宙連合、その枢軸コロニーである『ホルス国』は極秘の作戦を発令した。

それが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。


地球連合が総力戦を仕掛けて来ないのは、迅速に動く必要がないと判断しているためだとホルス国は気がついていた。

すると、もしも宇宙連合内でそのような超強力の新型RAを研究していることが外に漏れれば地球連合は総力戦の判断を下して全力でその芽を潰しに来るだろう。

だからこそ、これは極秘の作戦なのだ。その研究自体も、スペースコロニー内ではなくコロニーから遠く離れた辺境でこっそりと進められることになった。


……そしてその作戦こそ、この物語が生まれることになったその “原因” である。



極秘研究所———小惑星基地『ラー』

時は2250年12月17日。海戦から11ヶ月が経ち、とうとうホルス国以外の全てのスペースコロニーが地球へと降伏した。


そんな絶望的な状況で、産声を上げようとするモノがいる。

絶望の渦中、産声に縋る者がいる。

そして、与えられる者がいる。


それは救済を齎すのか、破滅を齎すのか———その、どちらもなのか。


万物は産まれ落ちて初めて始まる。しかし、それならば生の反対である死は終わりを示すのか?

否。死して初めて ”亡霊” は()()()()のである。


地球を箱庭にした人類は夜の闇など忘れかけていたが、宇宙に上がったことで再び闇を知った。夜の闇を照らしてくれる街灯は宇宙には存在しない。周囲に広がる無限の暗闇は、いつしか人々が亡霊を生み出したあの底なしの闇と同じなのだ。


だからこそ。言葉面が非科学的だと否定されようとも、人々は宇宙にいる限り心のどこかで恐れている。暗闇から現れ、自分を闇へと引き摺り込む亡霊の存在を。


これは彼らが産まれ落ち、亡霊として堕ちるまでの短い物語。

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