佇む
ガラケーがFOMA全盛期の頃の話。
兄貴がまだ高校生の頃、友達二人と街に遊びに行った。
片側4車線の大きなメイン通りを渡ろうと、信号が変わるのを待ってた。
しばらくすると、信号が青に変わり、待ってた歩行者が一斉に渡り始める。
兄貴たちも合わせて渡り始めた。
横断歩道の中腹あたりに差し掛かったところで、兄貴は、反対側で渡らずにいる人がいるのを見かけた。兄貴は目が悪いので、詳細は分からなかったが、背丈的に男の人だろうというのは分かった。
(ん?)
と疑問に思いつつも、さして気にしなかった。
二人が横断歩道を渡り切ろうとした時、兄貴はふと男の方に目をやった。
血だらけだった。
血だらけで突っ立っていた。でも、周りの人はその男を気にも留めていなかった。
行き交う人達の真ん中に突っ立ったままの血だらけの男。
(ヤバい)
そう思って、さっと目を逸らして気づいていないフリをした。
その後、何事もなかったように友達と買い物をしたり、ゲーセンに行ったりして遊んだ。
しかし、まずい事が起きた。
男がいるのである。
どこに行くにしても、あの血だらけの男が現れるようになっていた。
お店の中でも、道路でも、地下街でも。どこに行くにしても男がいるのである。
それでも、兄は気づいていないフリをしていた。
時間も遅くなり、そろそろ帰ろうかということになり、兄貴は友達と別れてバスに乗った。
家の最寄りのバス停を降りて、暫く歩く。
角を曲がって、家の近くの道まで差し掛かった裏道。
男が立っていた。人がすれ違う程度の細い道。その道を抜ければ家は目の前だと言うのに、血だらけの男が立っていた。
一気に汗が吹き出す。それでも気づいていないフリをし続ける。
意を決して、平静を装って進む。
ドンドン近づく。近づくに連れ男の姿カタチが分かるようになる。容姿、顔、表情がハッキリ見えてくる。
そして、男の真横を通り過ぎる。
『お前、気づいとろうが』
一気に血の気が引く。瞬間、絶叫しながら家になだれ込んだ。
その後、なにか起こったわけじゃない。でも、兄貴はこの事が、これまでで一番怖かったって話てた。
というお話。