002:遭遇、敵対、即反撃
通路は只管に長かった。肉体よりも先に精神が疲弊し……というか歩く事に飽きがきて小休止を挟みながら、体感的に数時間は経ったがまだ続いている。
通路は非常に入り組んでいた。とてつもなく長く複雑な迷路になっているようだ。
あなたは勘の赴くままに歩を進め、ついでに手足の感覚をさらに確かめつつ通路の先を目指した。
ぎっちょんぎっちょんとややぎこちなく動く指を見下ろし、曲がり角と分かれ道が連続する以外何も変化のない通路を歩き続けてさらに数時間。
あなたの視界に、あるものが映った。
それは水溜まり―――いや、粘っこい液体のような何かだった。
青紫色の半透明な何かが、ずるずると地面を這いずっていた。蛞蝓のような動きだ。
あなたはそれに興味を抱き、そっと近づいてみた。
あなたは生き物の観察が好きだ。趣味というほどでもない。ただ生きて動いている生き物の姿をじっと眺めている時間が好きだった。
何も考えず、自由に動いている生物の姿を眺める時間は心が安らいだ。
最近はこうして生き物と触れ合う時間もなかったな、と考えたあなたは内心わくわくしながらそれを観察してみた。
至近距離まで近づき、まじまじと見下ろしてみると。
びゅっ!と、それは貴方の顔面に液体を吹きかけてきた。
あなたは少し凹んだ。
落ち込んで、これは生き物に不用意に近付いた自分が悪いと反省した。
比較対象がないのでわかりづらいが、あなたと#それ__・__#には大きさに非常に差異があった。それの大きさは例えるならばコップ一杯の水を地面にこぼした程度だ。
それが人間に見下ろされたとすれば、確かに恐怖を抱くだろう。小さな生き物ならなおさらだ、とあなたは自分を恥じた。
あなたはそれを刺激しないよう、ゆっくりと後退った。しかし、それは今度は自分からあなたに近づき、液体を吹きかけてきた。
液体があなたに掛かる事はなかったが、あなたはまた凹んだ――嫌われてしまった。
だが、不意に背後からじゅぅ…という異音が聞こえ、あなたはおや?と首を傾げながら振り向いた。
そこには先程それに吹きかけられた液体があり……地面に付着した箇所から煙が上がり、ぐちゃぐちゃに溶け始めている様があった。
あなたは即座にそれに向き合い、容赦なく全力で殴りつけた。
何か小さな塊を壊す感覚と共に、それはべちゃっと潰れて地面に染みを作った。
レッサースライム を *し**た!
6 の **値 を *た!
あなたは慌てて手を振るい、顔を拭ってそれの残骸から離れた。
何というものを吹きかけてくれたのだろうか、自分の体は大丈夫だろうか。
聞こえない自分の心臓がばくばくと脈打っている幻聴を聞きながら飛び退いたあなたは、しっかりそれを触ってしまった手が何ともない事に気付き、また首を傾げた。
何ともない。顔も触ってみる。何ともない。
あの液体……おそらくは強力な酸であろう物体が効かなかったのだろうか。
石畳を溶かすような代物が効かないとは、ますます自分が何に変貌したのだろうかと不思議に思う。
あなたはしばらくの間腕を組んで考え込み……すぐまた思考を放棄した。
それより目の前の相手の事だ。然したる問題はなかったのに、危険だと思った瞬間、無慈悲に命を奪ってしまった。
あなたは無意味な殺生が好ましくなかった。なので食事の際もあまり肉を摂らなかった。
ならば野菜は良いのかと誰かに言われた事もあったが、その時は自分がとっているのは雑草や果実だから問題ないと還していた――はて、誰かとは誰の事だったか。
ならばこれを食するしか弔う方法はない、とあなたはそれの残骸に顔を近づけ……染みの中心に転がっているあるものに気付いた。
小指の先ほどの小さな宝石のような石だ。砕けてばらばらになっている。あなたが先ほど殴りつけた際に壊れたものだろうか。
指先で摘まんで持ってみると、膜のようなものが一緒についてくる。
半透明の袋のようだ。目?を凝らしてよく見てみると、うっすらと臓器らしきものが覗いて見える。
あなたはふと思い出した。これは昔、学校の理科で習った生物の細胞の構造に似ていると。
なる程、自分はこれを包んでいた袋を殴って潰したのか――あなたは然して意味のない疑問の解決に納得する。
こぼれてしまった液体は仕方がないが、これなら食べられるかもしれない。あなたはそう思ってそれを目の前に持ち上げ……自分の口はどこだろうかと固まった。
すると、徐に自分の顔の下半分が動いた気がして、反対側の手で触れてみる。動いていた。
なぞってみて、大きな牙のようなものが開いているのがわかり、あなたはほっと安堵する――取り敢えずこれで食事の心配はしなくてよさそうだ。
あなたは片手を掲げ、食事の前にそれにぺこりと礼をする。
あなたは毒の心配などはしていなかった。毒に当たったらそれはそれ、自分が死ぬだけだ、と。
あなたはそれを口の中に放り込み……動かし方がわからず咀嚼はできなかったが……喉に流し込んだ。味は当然しなかった。
レッ**スラ*ム の 能* を **!
〝溶解〟〝吸収〟 が **る よ*に なった!
念じてみると、口はかしゃんと音を立てて閉じた。望めばきちんと開閉できるようだ。
あなたは再度、それの残骸を見下ろす。他者に対する最低限の礼儀を果たす為に、立ち上がって姿勢を正す。
この体に意味は有るのか些か疑問ではあるが、貰った命は無駄にはしない。しっかりと血肉にさせてもらう。
感謝を込め、ぺこりと頭を下げて……べちゃっ!とまた何かが頭に当たる感触がした。
あなたは真横を振り向いた。分かれ道の向こう側から、ずるずるぐちゃぐちゃと這いずり出てくる集団――先程食べたそれの色違いが大量にやってくる様が見えた。
あなたは固まった。
それの集団は、津波のような勢いであなたに襲い掛かった。あなたは一旦遠慮を止め、只管自己防衛と反撃に徹した。
数分後、あなたは嫌というほどそれを腹に収めた。満腹感は一切得なかった。
あなたは弱肉強食という言葉を身を以て知り、暫く生物観察が嫌になった。
レ*サース*イ* を ***!
フレイム***ム を 倒し*!
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